移動と階級が示す現代社会の不平等:お金とアクセス格差の現実

現代社会において、人々の「移動」をめぐる機会や結果の不平等、そしてそれによって生じる様々な社会的排除と階層化が深刻な問題となっています。これは単にお金を持っている人が有利であるという単純な話にとどまらず、経済的な側面が移動における社会的平等を阻害する最大の制約条件となっているのが現状です。大学入学共通テストにも関連して注目された、イギリスの社会学者ジョン・アーリは、この移動をめぐる社会的な排除が「アクセスの貧困」を生み出していると指摘しています。経済的な豊かさと移動を巡る格差や不平等は、密接に関連しているのです。

経済資本が移動に与える影響とは

アーリが述べるように、あらゆる移動は経済資本、つまりお金を必要とします。これは、自動車やタクシーといった交通手段を所有または利用するためだけでなく、スマートフォンやPCを所有・利用して情報やサービスにアクセスするため、さらには鉄道や飛行機を使って旅行、留学、出張などを行う際のチケット代や移動費にも関わってきます。また、遠方に住む友人、家族、知人、仕事仲間などに会いに行く際にも費用が発生します。このように、所有する経済的なリソースの量が、移動の機会や可能性を大きく左右する社会に私たちは生きています。

移動格差を形成する身体的、組織的、時間的側面

しかし、移動に伴うアクセスの貧困は、経済資本の有無だけが要因ではありません。これには、身体的側面、組織的側面、時間的側面といった要素も複雑に関係しています。

身体的側面とは、例えば何らかの身体的な障害があるために自転車や自動車の運転が困難であったり、長距離を歩くのが辛かったり、街中の段差を他の人よりも困難に感じたりする場合です。

組織的側面として顕著なのが、都市部と地方の間の移動インフラの格差です。大都市では数分おきに電車やバスが運行している一方で、地方の過疎地域では最寄りの駅まで歩いて1時間かかったり、町内に駅がなかったり、土日にはほとんどバスが運行しないといった状況が見られます。このような移動を支えるインフラや、安心・安全に移動できるシステムの地域間格差は、組織的な要因による移動の不平等を生み出しています。

地方の静かなバス停留所。本数の少ない公共交通が、地域の移動格差の一因となっている様子。地方の静かなバス停留所。本数の少ない公共交通が、地域の移動格差の一因となっている様子。

さらに、時間的側面も無視できません。家庭内のスケジュールや、日々こなさなければならない家事、育児、介護などとのバランスの中で、希望する時間に自由に移動できない場合があります。地方におけるバスや電車の本数の少なさや運行間隔の広さも、移動を困難にする時間的な要因と言えるでしょう。

結論として、現代社会における移動格差は、経済的な要因だけでなく、身体的な制約、地域間のインフラ格差といった組織的な問題、そして個々人の時間的な制約が複合的に絡み合って生じています。この多面的な不平等は、人々の社会参加の機会に大きな差を生み出し、社会的な分断を広げる要因となっています。


参考文献:

  • 記事「移動と階級#2」 (参照元記事)
  • ジョン・アーリ 著 『移動と階級』 (言及されている書籍)