バブル経済期に日本各地で活況を呈したリゾートマンション建設ラッシュ。しかしその多くは現在、「負動産」と呼ばれる状態に陥り、売却も解体も困難な状況です。コンクリートの塊と化した建物を前に、かつての購入者たちは何を思うのでしょうか。本記事では、吉川祐介氏の著書『バブルリゾートの現在地 区分所有という迷宮』の一部を基に、この問題の現状と、稀有な解体事例から見えてくる課題を探ります。
越後湯沢駅は東京から新幹線で1時間20分ほど。駅周辺にも多くのリゾートマンションが並ぶ
老朽化するマンション、管理と解体の難しさ
市場価格が低迷しているリゾートマンション全てが管理状態が悪いわけではありませんが、極端に価格が下がった物件では、管理組合が管理費滞納問題の解消に苦慮するか、あるいは問題を放置せざるを得ない状況に直面します。管理組合内でも問題への危機感は人それぞれで、積極的に理事を務める人は少ないのが現状です。
リゾートマンションの理事は当番制が多く、消極的な理由で就任する人も少なくありません。中には管理業務の私物化や積立金の横領を企む悪意ある事例も報道されますが、これは少数派でしょう。しかし全体的に、リゾートマンションにおいては、将来的な建て替えや解体といった長期的な視点に立った議論が進みにくい傾向があります。
築年数の経過したリゾート地のマンションは、市場価格が極めて低いため、多額の費用をかけて建て替えを行う経済的メリットがほとんどありません。建て替えが現実的でない場合、最終的には老朽化により解体が必要となりますが、マンションの建て替え事例は時折見られるものの、解体されて姿を消した事例は全国的にも非常に少ないのが実情です。
稀有な解体事例:「マンション苗場」の教訓
全国的に見ても珍しいマンションの解体事例の一つが、「マンション苗場」です。かつて苗場に存在したこのリゾートマンションは、2018年に区分所有者全員の合意を得て解体されました。これはリゾートマンションの枠を超えた先進的な事例として、一部で報道されましたが、広く知られているわけではありません。
マンション苗場は、元々は「サンライズ苗場」という名称で、1975年に分譲が開始されました。これは苗場における分譲マンションの初期のもので、その2年後に西武不動産の「西武ヴィラ苗場」(合計9棟)が販売される前の先進的な存在でした。しかし、その後のバブル期に豪華な共用設備を持つ大規模マンションが周辺に次々と建設される中で、全31戸と小規模なマンション苗場は、ほとんど使用されない部屋が増え、管理費や修繕積立金の滞納が常態化していきました。苗場自体の観光地としての競争力が低下していくにつれて、マンション苗場は静かに廃墟化への道をたどっていたのです。
管理組合も事実上機能停止状態でしたが、当時の区分所有者の一人がマンションの将来に危機感を抱き、地元の不動産会社と協力して解体への道を模索し始めました。合意形成のためには、まず全所有者の特定が必要でしたが、中には所在不明の所有者もいました。登記簿上の住所を頼りに、周辺住民への聞き込みを続けるなど、実に5年にも及ぶ執念の追跡調査が行われました。その結果、ついに区分所有者全員の合意を取り付け、解体に成功したのです。解体後の跡地は、近隣の事業者へ売却されています。
まとめ
マンション苗場の解体事例は、老朽化したリゾートマンションが直面する課題、特に区分所有者間の合意形成の困難さを浮き彫りにしました。5年にも及ぶ所有者追跡と粘り強い交渉の末に実現したこの事例は、極めて稀であり、多くの「負動産」化したリゾートマンションが抱える問題の根深さを示唆しています。今後も全国各地で老朽化が進むリゾートマンション問題は、社会的な課題として解決策が求められています。
参考文献
- 吉川祐介『バブルリゾートの現在地 区分所有という迷宮』(角川新書)