有名人を食い物にするオンラインカジノの「アテンダー」の実態

6月16日、人気アイドルグループJO1の鶴房汐恩がオンラインカジノを利用した賭博容疑で書類送検されました。この一件は、今年に入り相次いでいる有名人のオンラインカジノ利用による摘発の中でも特に注目を集めています。所属事務所は鶴房に対し、10日間の活動自粛処分を発表しました。彼は2023年1月頃からオンライン上で賭博を始め、2024年8月末までに約1500万円を賭け、710万円の損失を出したとみられています。警視庁の取り調べに対し素直に容疑を認め、「軽い気持ちだった」と供述したといいます。

続く有名人のオンラインカジノ摘発

鶴房のケースは、今年に入り顕著になっている有名人のオンラインカジノ利用トラブルの一例に過ぎません。お笑い界では吉本興業所属の複数の芸人がオンラインカジノ使用を巡り活動休止となる事態が続出。M-1王者である『令和ロマン』の髙比良くるまも事務所からの独立騒動に発展しました。スポーツ界でもプロ野球選手の間で利用が相次いで発覚し、巨人のオコエ瑠偉や西武の外崎修汰が書類送検されています。さらに6月下旬にはフジテレビの有名プロデューサーが逮捕されるなど、オンラインカジノ汚染は様々な分野に広がっています。

こうした有名人の摘発は、まさに氷山の一角です。その裏には、業界関係者の間で「オンカジのアテンダー」や「ジャンケット(紹介屋)」と呼ばれる、有名人をカジノの「沼」へと引きずり込む存在が暗躍しています。摘発された有名人の多くは、警察の取り調べに対し「動画サイトのCMで合法だと思った」と供述していますが、実際には巧妙な手口で高レートのオンラインカジノへ誘導されています。その中心人物とされるのが、謎の女性「X子」です。

スマートフォンでオンラインカジノのゲーム画面を表示している様子。有名人の摘発が相次ぐ中、裏で暗躍するアテンダーの実態とは。スマートフォンでオンラインカジノのゲーム画面を表示している様子。有名人の摘発が相次ぐ中、裏で暗躍するアテンダーの実態とは。

謎の「アテンダー」X子の正体と巧妙な手口

業界内で数多くの有名人をオンラインカジノに紹介しているとされるX子は、30年ほど前から闇カジノなどの賭場に出入りしていた人物です。コロナ禍の前後からオンラインカジノのジャンケット活動を本格化させました。彼女の表向きの顔は、東京・港区に高級飲食店を構える40代後半のママです。しかし、その裏では店を訪れる客の中からターゲットを選び、「最近面白い遊びがある。負けても大丈夫、私がカネを貸すから」などと声をかけ、オンラインカジノの世界へと引き込んでいきます。

X子の手口は単なる紹介にとどまりません。彼女はオンラインカジノのやり方から、ゲームで勝った際の振込先の口座準備まで、幅広いサポートを行います。特に重要なのは、摘発時に足が付くリスクのある銀行口座情報に関する対策です。カジノからの振り込みは避け、勝った有名人への支払いは店の個室の中で現金で行う徹底ぶりです。さらに、勝てば「お小遣い」として上乗せした金額を渡し、たとえ負けてもその場ですぐに現金を貸し付けることで、依存性を加速させ、有名人たちを「沼」から抜け出せないようにしています。

影響力を持つ顧客リスト

X子の「顧客リスト」は多岐にわたり、その影響力の大きさを物語っています。40代の実力派俳優Tは、20年ほど前からギャンブル好きで知られ、X子とはもともと海外カジノ仲間でした。今ではX子の店に入り浸り、気づけば数百万単位の借金が積み重なっているといいます。

プロ野球の有名OBであるNや監督経験者のTの名前も挙げられています。両者とも20〜30年前からギャンブルに興じていましたが、闇カジノの摘発が厳しくなった約4〜5年前にX子経由でオンラインカジノにハマりました。特にNは1回のゲームで2000万円〜3000万円もの負けを繰り返すこともあります。一方、Tは自身もオンラインカジノで遊ぶだけでなく、スポーツ界から十数人もの客をX子に紹介しています。ここ数年でプロ野球界にオンラインカジノ利用者が急増した背景には、彼の存在があるのかもしれません。

さらに、30代の元国民的アイドルKは、コロナ禍辺りからX子の「弟子」のような存在となり、「姐さん、次はあの子を連れていきますよ!」と、芸能関係者や企業の社長などを積極的にX子につなげるハブ役を担っています。

巧妙な顧客維持と拡大のサイクル

X子が長年にわたり業界で生き残り、影響力を拡大させている要因の一つに、巧妙な顧客維持戦略があります。負けが込んでいる客に対しては、韓国やマカオのカジノ、国内のアミューズメントカジノなどの社交場で接待を行うなど、手厚いアフターケアを欠かしません。そして、このシステムの中で最も恐ろしいのは、自分が騙されているとは知らない利用者が、別の新たな「お客さん」をX子のもとへ連れてくるという、負の連鎖による拡大サイクルが出来上がっていることです。

警察当局は、こうしたオンラインカジノによる違法賭博問題に対し、利用者のみを取り締まるだけでなく、X子のような悪質なジャンケットや胴元への本格的な摘発に乗り出すべきです。問題の根源を絶たなければ、オンラインカジノ汚染は広がり続けるでしょう。そして何より、利用する側も「違法ではないのでは」「軽い気持ちで」といった安易な考えを捨て、危機意識を持たなければなりません。「知らなかった」で済まされる時代ではないことを、改めて認識する必要があります。

Source link: https://news.yahoo.co.jp/articles/f681baf4417a58eeb35410f86cd9d56f50c42da8