外資系コンサルで働く小川幸恵さん(仮名、42歳)は、将来の妊娠の可能性を残すため30代後半で卵子凍結を選択しました。その後、40代で出会った現在のパートナーにその事実を打ち明けたところ、思わぬ回答が返ってきたといいます。本記事では、卵子凍結を選択した女性が直面した、パートナーシップにおける現実をお伝えします。
パートナーとの出会い、そして結婚の予感
小川さんには、知人主催の食事会で出会った2歳年上のパートナーがいます。彼は30代後半で離婚経験があり、7歳になる娘さんがいますが、娘さんは元妻と暮らしています。私立高校の教師をしている彼とは、いわゆる婚活ではなく、自然な流れで関係が深まっていったといいます。「これまでのタイプとは違うけれど、気を使わずに自然体でいられる相手」だと感じ、互いに40歳を過ぎてからの出会いだったこともあり、人生後半を共に過ごしたいと考えるようになりました。
将来の家族の形や生殖医療について考える男女のイメージ(写真はイメージです)
卵子凍結の決断と、パートナーへの告白
付き合って半年ほどが経ち、結婚の話が出始めた頃、小川さんはパートナーに卵子凍結していることを話しました。妊娠・出産を望むなら時間的な制約があること、そしてできることなら子どもを産んでみたい「かもしれない」という気持ち、後から後悔したくないという思いを伝えたそうです。話しているうちに自然と涙がこぼれ、「あ、私って、やっぱり子どもがほしかったんだ」と気づいたといいます。「子どもがほしいかもしれない」という曖昧な気持ちが、彼と面と向かって話すことで「子どもがほしい」という明確な思いに変わった瞬間でした。
パートナーの衝撃的な反応と、生殖医療への抵抗
卵子凍結という医療技術を初めて知ったパートナーは、小川さんの話を聞いて面食らった表情だったといいます。彼は前妻との間に子どもがおり、新たに子どもを持つことは考えていなかったようでした。しかし、小川さんの思いを聞き、何度か話し合いを重ねるうちに、「幸恵ちゃんがほしいなら、挑戦してみようか」と言ってくれたそうです。
ただ、ここで彼は凍結卵子を使うこと、つまり生殖医療に対して強い抵抗感を示しました。人の命は自然な営みの中で授かるべきものであり、不自然なことに医療の手を借りれば、どこかで無理が生じるのではないか――これが彼の「抵抗感」の理由でした。優しく伝えられたものの、彼の意見は「自然に妊娠しなければ、そこで諦めるのはどうか」「医療の手を借りて“無理やり”妊娠するのはどうなのか」というものでした。
このように、卵子凍結という選択は、その後のパートナーシップや結婚において、予期せぬ課題を突きつけることがあります。将来子どもを望む可能性を残すための医療技術が、生殖医療に対する価値観の違いとして現れ、話し合いが必要となる現実が浮き彫りになります。
本稿は、松岡かすみ『「-196℃の願い」卵子凍結を選んだ女性たち』(朝日新聞出版)より一部抜粋・編集しています。