うな重の裏側:活鰻を支える「P」の秘密と、知られざる問屋の役割

日本を代表する食文化の一つである「うな重」。重箱に美しく盛り付けられた蒲焼は、多くの人々を魅了してやまない料理です。しかし、「うな重」がどのように誕生し、私たちの食卓に届くまでにどのようなプロセスを経ているのか、その裏側を知る人は少ないかもしれません。実は、活鰻のサイズを表す独自の単位「P」や、私たちの知らないところで活躍する「うなぎ問屋」の存在が、美味しいうなぎを提供するために不可欠な役割を担っています。本稿では、うな重のルーツをたどりながら、活鰻の流通を支える知られざる業界の秘密に迫ります。

うな重が美しく盛り付けられた重箱のイメージ。日本伝統の食文化を象徴する一品。うな重が美しく盛り付けられた重箱のイメージ。日本伝統の食文化を象徴する一品。

うなぎのサイズを示す「P」とは?

魚の数え方は様々ですが、うなぎの場合、活鰻(かつまん:生きたうなぎ)は「1本、2本」と数えられ、料理の材料としては「尾(び)」と数えることもあります。しかし、うなぎのサイズを取引上で表す特別な規格があることをご存知でしょうか。それが「P(ピー)」です。この「P」は「ピース」の略で、1kgあたりに何匹のうなぎが含まれるかを示す単位です。例えば、「3P」であれば1kgに3匹、「4P」であれば4匹となります。つまり、「3P」の方が「4P」よりも一匹あたりの重さがある、つまり大きいうなぎを意味します。この「P」による仕分け作業は、うなぎ問屋の業務の中でも特に重要な位置を占めています。

美味しいうなぎを食卓へ:4種のうなぎ問屋の役割

うなぎ問屋と聞くと、その存在に驚かれる方もいるかもしれません。実は、うなぎの流通を支える問屋は大きく分けて4つの種類があります。

  1. シラス問屋: シラスウナギ(うなぎの稚魚)をシラス漁師から買い付け、養鰻場(ようまんじょう)に卸す役割を担います。
  2. 産地問屋: 養鰻場から育った活鰻を仕入れ、全国各地の市場や他の問屋へ卸します。
  3. 消費地問屋: 産地問屋から活鰻を仕入れ、うなぎ専門店や料理店といった最終消費地に最も近い場所で卸売を行います。私たちが食べるうなぎに直結する、最も身近な問屋と言えるでしょう。
  4. 輸入問屋: 海外から輸入した活鰻を消費地問屋などへ卸します。

問屋の主な仕事はうなぎの卸売ですが、単に売買するだけでなく、うなぎが最高の状態で消費者の元に届くよう、多岐にわたる役割を果たしています。

知られざる消費地問屋の日常:「鰻問屋もがみ」の舞台裏

私たち消費者にはあまり馴染みのない消費地問屋ですが、その仕事は早朝、時には真夜中から始まります。千葉県柏市にある「鰻問屋もがみ」を例に、その知られざる日常を垣間見てみましょう。

問屋の朝は、まず配送されてきた活鰻を梱包されたビニール袋から取り出す「袋開け」作業から始まります。その量は膨大で、少ない日でも20kgを1本と数える活鰻が25本にも達し、繁忙期には想像を絶する量になります。

次に、「立てる」と呼ばれる作業を行います。袋から出したうなぎを、問屋やうなぎ店でうなぎを生かしておく場所である「立場(たてば)」へと移す作業です。うなぎは5kgごとに養鰻篭(ようまんかご)に入れられ、積み重ねられた状態で井戸水が絶えずかけ流され、最高の鮮度が保たれます。

鮮度維持に欠かせないのが「検品」です。配送日だけでなく毎日欠かさず行われるこの重要な作業では、うなぎ一匹一匹の鮮度が保たれているか、弱っていないかを丁寧に確認します。そして、取引先の要望に応じて「仕分け・選別作業」が行われます。産地問屋で大まかに分けられた活鰻を、得意先の細かな注文に合わせて、素早く、そして傷つけないように手作業で選別し、速やかに配送へと回します。

最後に、「うなぎ捌き」です。これは非常に体力のいる作業であり、若い職人でさえ腰痛や肩こりに悩まされるほどです。長年の経験を持つ高齢のベテラン職人にとっては、自ら捌くことが難しくなることも珍しくありません。そうした職人を助け、捌きのサポートをすることも、問屋の大切な仕事の一つなのです。

結論

私たちが口にする美味しいうな重は、単にうなぎを調理するだけでは実現しません。活鰻のサイズを管理する「P」表記の導入から、シラス問屋、産地問屋、消費地問屋、輸入問屋といった多様な問屋の連携、そして消費地問屋での早朝からの緻密な仕分け、鮮度管理、熟練の捌きといった知られざる努力によって支えられています。問屋は、日本の豊かなうなぎ食文化を維持し、最高品質のうなぎを私たちの食卓に届ける上で、まさしく不可欠な存在と言えるでしょう。彼らのプロフェッショナリズムと献身が、今日も美味しいうな重を味わえる喜びを私たちにもたらしているのです。

参考資料

高城 久『読めばもっとおいしくなる うなぎ大全』(講談社)