日本の南海上では現在、低気圧と南シナ海を西に進む台風第4号を含む大きな低圧部が形成されつつあり、モンスーンジャイアと呼ばれる大規模な大気循環へと発達する可能性があります。モンスーンジャイアが形成されると、複数の台風が発生しやすくなり、過去には遠く離れた北海道にも甚大な影響をもたらした事例があります。今後の状況に厳重な注意が必要です。
日本の南海上に位置する大きな低圧部と台風第4号を示す気象衛星画像
「モンスーンジャイア」とは
日本の南海上では、インド洋東部から吹き込む西~南西の風(季節風:モンスーン)と、太平洋高気圧から吹き出す東よりの風が合流し、反時計回りの循環を生み出しています。この循環がさらに規模を拡大し、大規模な低圧部(モンスーントラフ)となると、反時計回りに吹く大規模な風の循環、すなわちモンスーンジャイアが形成されます。モンスーンジャイアの内部では上昇気流が多発するため、熱帯低気圧や台風が発生・発達しやすい環境が生まれることが知られています。
過去の北海道**災害**事例(2016年)
過去に日本の南海上でのモンスーンジャイア形成に関連し、2016年には北海道が甚大な被害を経験しました。この年の8月は台風が相次いで発生し、特に8月17日には第7号、21日には第11号、23日には第9号と、わずか1週間の間に3個の台風が北海道に上陸するという、1951年の統計開始以来初めての事態となりました。
これらの台風の接近や上陸に加え、暖かく湿った空気が流れ込み北海道付近に停滞した秋雨前線も非常に活発化しました。この影響で、2016年8月の北海道道東方面では記録的な大雨となり、帯広では月降水量が378.0mmに達し、これは1892年の観測開始以来、現在も8月として最多記録となっています(平年値141.3mm)。
2016年8月、北海道に上陸または接近した複数の台風の進路を示す気象図(台風7号、9号、11号、10号など)
さらに、8月下旬に小笠原諸島方面から北上し、8月30日に東北地方へ上陸した台風第10号の影響も北海道に及びました。台風の東側に位置し、南東からの非常に強い風が吹き付けた日高山脈周辺では、8月29日から31日の3日間にかけて連続して大雨が降り、一連の降雨量が300mmを超える地域がありました。この大雨により、河川の氾濫や土砂災害、住宅への浸水などが発生し、国道の通行止めやJRの運休など、交通機関にも深刻な影響が出ました。
高い海面水温と今後の注意
現在、日本周辺の海面水温は平年より3~5℃も高い状態が続いています。このように高い海面水温は、海水面からの水蒸気の蒸発を非常に活発化させます。このような条件下で台風や熱帯低気圧が日本付近に接近すると、勢力を急速に強め、広い範囲にわたって大雨や暴風などの深刻な影響をもたらす可能性が高まります。
今後の日本の南海上の動向、特にモンスーンジャイアの形成やそれに伴う台風の発生・発達については、引き続き厳重な注意が必要です。気象庁などからの最新情報をこまめに確認し、万一の大雨や暴風による災害に備え、早めの準備を進めるようにしてください。
日本気象協会 北海道支社 佐藤 雅義