日米関税交渉の舞台裏:トランプ、ベッセント、ラトニック3氏の関係と戦略の差異

ドナルド・トランプ米大統領が貿易相手国への追加関税パネルを提示した4月2日から約3カ月20日を経て、日米関税交渉は7月22日に最終合意に至りました。この交渉期間中、日本側からは赤澤亮正経済再生担当大臣が、米国側からはスコット・ベッセント財務長官、ハワード・ラトニック商務長官、そしてジェイミーソン・グリア通商代表部(USTR)代表が主要な交渉官として精力的に協議を重ねてきました。合意の最終判断はトランプ大統領によるものですが、交渉過程においては、彼とベッセント財務長官の間で交渉期限に対する見解の不一致が見られ、またベッセント財務長官とラトニック商務長官の間にも過去の経緯から微妙な関係性が存在しました。本稿では、約4カ月に及んだこの日米関税交渉から浮かび上がった、トランプ大統領、ベッセント財務長官、ラトニック商務長官の3者の関係性に焦点を当て、その戦略と温度差について深く掘り下げます。

合意時期を巡るトランプ氏とベッセント財務長官の「温度差」

トランプ大統領、スコット・ベッセント財務長官、ハワード・ラトニック商務長官がホワイトハウスで並び立つ姿。日米貿易交渉の主要人物。トランプ大統領、スコット・ベッセント財務長官、ハワード・ラトニック商務長官がホワイトハウスで並び立つ姿。日米貿易交渉の主要人物。

日米両国が関税交渉で合意に至る直前、米国のビジネス専門チャンネルCNBCの番組に登場したスコット・ベッセント財務長官は、トランプ大統領が設定した2回目の交渉期限である「8月1日までに合意するよりも、質の高いディール(取引)の方が重要である」と明言しました。彼は交渉の「タイミング」よりも「質」を重視する姿勢を示し、急がないメッセージを発信することで、交渉期限の延長すらも示唆したのです。以前には、ベッセント財務長官が日本の参議院選挙を控え、この時期に日米間で関税交渉をまとめるのは困難であると語り、日本側への配慮を滲ませていたことからも、彼の現実的で穏健な一面が浮き彫りになりました。

一方、トランプ大統領は一貫して強硬な姿勢を崩しませんでした。「日本は甘やかされてきた」と批判し、米国産のコメや自動車の市場開放を強く要求し続けたのです。日本の参議院選挙において石破政権が敗北し、自民党と公明党が衆参両院で過半数割れとなったことを受けて、トランプ大統領は直感的に、弱体化した日本政府と関税交渉を合意に導く絶好の機会だと判断したようです。彼は自ら動き、ホワイトハウスの執務室で赤澤経済再生担当大臣と直接交渉を行い、ディールをまとめ上げました。この一連の動きは、トランプ大統領が交渉の「タイミング」を最優先したことを明確に示しています。

このように、日米関税交渉の決着時期においては、トランプ大統領とベッセント財務長官の間に明確な「温度差」が存在していたと言えるでしょう。ベッセント財務長官が質の高い合意を追求し、冷静かつ現実的な判断を優先したのに対し、トランプ大統領は政治的な機会を見極め、自身の強硬な要求を貫きながら、迅速な決着を目指す戦略を採用しました。

参考文献