日本経済は「トランプ関税」の余波に揺れる中、新たな「外圧」として防衛費の大幅増額要求が浮上しています。NATOが2035年までに防衛費をGDP比5%まで引き上げることで合意したことを受け、トランプ前米大統領はこれを「ヨーロッパと西洋文明にとっての大きな勝利」と称賛し、アジア太平洋地域の同盟国にも同様の負担を求めてきました。ホワイトハウスのレビット報道官も「NATOの同盟国ができるなら、アジア太平洋地域の同盟国も可能なはず」と日本への圧力を鮮明にしています。石破茂首相は早くもこの動きに反応し、NATOの決定を受けて「最初から金額ありきではないが、日本の判断で必要なものを積み上げていく」と増額受け入れを示唆する発言をしました。この状況が続けば、石破首相が参院選で過半数を確保して続投した場合でも、すぐにトランプ氏の強力な「外圧」への対応を迫られることになり、国民には選挙後の「防衛増税」が現実味を帯びてくるでしょう。
防衛費GDP比5%目標達成に必要な財源
一体どのくらいの負担増になるのでしょうか。日本は既に防衛費の増額を進めている最中です。岸田内閣は2022年、ロシアのウクライナ侵攻などを背景にNATO諸国が防衛費のGDP比2%への引き上げを打ち出したのに対応し、5年間で総額43兆円の防衛力整備計画を決定、「2027年度にGDP比2%」を目標に掲げました。2025年度の防衛関連予算は9.9兆円で、これは日本のGDPの約1.8%に相当します。
日本の現在のGDPは約609兆円(2024年)です。もし防衛費をGDP比5%まで引き上げるとすれば、その額は約30兆円となります。現在の予算9.9兆円との差額を計算すると、年間で約20兆円もの追加財源が必要となる計算です。
日本の防衛費GDP比5%増額要求と財源捻出の課題を示すイメージ
主要三税での財源確保の困難性
年間20兆円という巨額の財源を賄う方法として、真っ先に思い浮かぶのは消費税、所得税、法人税という「主要三税」の増税です。しかし、財政学者の藤岡明房・立正大学名誉教授は、消費税収は全額社会保障財源に充てると政府が決めているため、防衛財源のために消費増税を行うのは筋が通らないと指摘しています。
所得税の2024年度の税収は約21兆円、法人税は約18兆円です。もし20兆円の追加防衛財源を全額所得税で賄う場合、税率を現在の約2倍に引き上げる必要があります。年収500万円の人の所得税額(税率10%)は現在の約12.8万円から25.6万円に増加することになります。所得税と法人税で半分ずつ負担する場合でも、税額は現在の1.5倍という大幅な増税になります。
藤岡氏は、「所得税と法人税は、東日本大震災からの復興財源のために既に増税され、岸田内閣の防衛力増強のための財源としても引き上げ方針(2026年4月実施)が打ち出されています。これ以上の増税は国民の理解を得るのが非常に難しいでしょう」と語ります。その場合、これまでの政府のやり方として、主要三税以外の税目を増税して財源を捻出する可能性が高いと見られます。
主要三税以外に見込まれる増税案
過去の事例を見ると、大きな財源が必要になった際には主要三税以外の税目への課税強化が行われてきました。例えば、1990年の湾岸戦争時には、日本は多国籍軍への90億ドル支援の財源として石油税と法人税を臨時増税しています。東日本大震災からの復興財源のためには法人税・所得税が臨時増税され、さらに岸田内閣の防衛費増額ではたばこ税と法人税の増税が予定されています。
では、主要三税以外で増税が見込まれる税目は何でしょうか。年間20兆円という規模の財源を捻出するためには、広範な税目での負担増が必要になる可能性があります。これまでの報道や議論からは、酒税、たばこ税、ガソリン税といった既存の税目の課税強化に加え、過去に存在した物品税の復活や、資産に課税する富裕税の導入なども増税メニューとして取り沙汰されています。
結論
米国からの防衛費GDP比5%への増額要求は、日本に年間約20兆円もの新たな財源確保という喫緊の課題を突きつけています。主要な税目での大幅な増税が難しい中、広範な税目での負担増が国民に求められる可能性が高まっています。
出典
週刊ポスト2025年7月18・25日号 / Yahoo!ニュース