アメリカ独立リーグの現実:夢を追う野球選手の過酷な日々

「夢を追い続けることは、本当に正しいのか?」――アメリカにはMLB傘下に属さない、複数のプロ野球リーグが存在する。これらは総称して「独立リーグ」と呼ばれている。MLBのドラフト指名から漏れた選手や、マイナーリーグから契約を解除された選手たちが、「もう一度メジャーへのチャンスを掴む」という最後の望みをかけて、この独立リーグへと身を投じる。しかし、彼らを待ち受けているのは、想像を絶するほど過酷な環境だ。十分な報酬や食事、そしてまともな宿泊環境はほとんど提供されない。それでも、選手たちはなぜこれほどまでに厳しい場所に挑戦し続けるのだろうか。

筆者自身の経験から言えば、ある独立リーグに参加した際に最初に感じたのは、「これは野球ではなく、生き残りをかけたサバイバルだ」という感覚だった。このリーグでは、選手がプレーするためには参加費を支払う必要があり、報酬は一切ない文字通りのゼロだ。生活環境は極限まで切り詰められていた。筆者が経験したシーズンでは、約50人もの選手が一つの教会の地下室で共同生活を送り、プライバシーは皆無に等しく、電波状況も悪く、水道も満足に使えなかった。

アメリカ独立リーグの現実:夢を追う野球選手の過酷な日々
アメリカ独立リーグの選手たち、教会の地下での過酷な生活環境を示す様子アメリカ独立リーグの選手たち、教会の地下での過酷な生活環境を示す様子

シャワーを浴びるためだけに、冷たい水しか出ない市民センターまで片道15分歩くこともあった。体を清潔に保つことすら容易ではなかったのだ。日々の食事の確保も大きな課題だった。最寄りのスーパーまで歩いて40分かかるような場所もあり、日常生活そのものが選手たちにとって大きな負担となっていた。運営側からの差し入れや、試合後のピザ支給といった恵みもあったが、栄養バランスや量は十分とは言えなかった。それでも、選手たちは「ここにいれば、上のリーグに繋がるチャンスがある」という希望だけを胸にプレーを続けていたのである。

こうしたリーグの中には、MLBパートナーズリーグ(MLB傘下のマイナーリーグ球団が運営に関わる独立リーグ)と提携している場合もあり、そこで優れた成績を残した選手には、より上位のリーグへ昇格する道が開かれる可能性がある。しかし、日本人選手にとっては、この道はさらに険しいものとなる。ビザの問題などから、シーズン中のマイナーリーグへの急な昇格(コールアップ)は制度上ほぼ不可能に近い現実がある。シーズン終了後にマイナー契約を勝ち取る可能性はあるものの、その機会は非常に限られている。このような環境を目の当たりにすると、「本当にこの片田舎のグラウンドに、MLBやマイナーリーグのスカウトが集まってくるのだろうか?」と疑問に思わざるを得ないのが正直なところだ。

この独立リーグでの経験は、野球の技術だけでなく、極限状況での精神力や人間性を試される場であったと言える。夢を追い求めることの尊さとは裏腹に、その道のりがどれほど厳しく、報われる保証がない現実があるのかを痛感させられる。多くの選手が、この過酷な環境の中で、ほんの一握りの可能性に全てを賭けて日々を送っているのだ。彼らの挑戦は、野球界の知られざる一面であり、プロの世界の厳しさを物語っている。

出典:
https://news.yahoo.co.jp/articles/53493ee42e7ac6b856e8b9cf85fbd69bec61639e