「日本の学生は奨学金の返済に苦しんでいるのに、外国人留学生ばかり優遇されている」――このような意見を耳にすることがあるかもしれません。しかし、外国人留学生に対する奨学金制度は、一見すると単純に見えるものとは異なり、その実態は複雑です。本記事では、この誤解を解き明かし、外国人留学生支援を巡る真の状況を詳細に解説します。日本の国際社会における役割と、留学生が日本で学ぶことの意義を理解するためにも、正確な情報に基づく認識が不可欠です。
留学生支援の現状を示すイメージ画像。日本の奨学金制度における外国人留学生の実態を解説します。
「国費留学生」はごく少数:誤解の背景にある数字
留学生の奨学金について、日本では様々な誤解が広まっています。特に、「日本人学生は日本学生支援機構(JASSO)の貸与制奨学金が主流なのに、外国人留学生は多額の奨学金を受けている」という認識は典型的なものです。しかし、実際の状況は大きく異なります。
例えば、文部科学省が支給する「国費留学生」は、外国人留学生が受ける奨学金の代表例ですが、その数は限られています。2020年時点で、国費留学生は8,761名に過ぎません。同年の全外国人留学生総数が279,597名であることを踏まえると、国費留学生は全体のわずか約3.1%に過ぎず、ごく少数派であることが明らかです。この数字からも、「優遇」という批判が実態とはかけ離れていることが分かります。国費留学生の内訳を見ると、中国やベトナムなど、多くの留学生を日本に送る国からの割合が少ない傾向にあります。
国費留学生の割合がこのように低い理由としては、その選考プロセスに特徴がある点が挙げられます。国費留学生には、大きく分けて現地の日本大使館から推薦される「大使館推薦」と、大学が文部科学省に申請して枠を獲得する「大学推薦」の2種類が存在します。大使館推薦は国ごとに人数が割り当てられ、厳しい選抜をクリアした学生のみが来日します。大学推薦も、大学が申請すれば必ずしも認められるわけではなく、支給される学生数は厳しく制限されています。さらに重要なのは、これらの国費留学生の選考が入学前に行われるという点です。つまり、一度私費で来日した留学生が、後から選考を経て「国費留学生」に切り替わるという仕組みにはなっていないのです。
文科省以外にも存在する奨学金の種類と仕組み
もちろん、外国人留学生が受けられる奨学金は、文部科学省が支出する国費留学生関連のものだけではありません。通常、これらの奨学金を提供する財団等への申請は、留学生自身が行うことが一般的であり、大学教員は推薦書作成などで支援する程度です。
しかし、一部の奨学金には大学ごとに「枠」が与えられているものも存在します。これらの「枠」を獲得するためには、大学教員が様々な機関に申請書を提出し、獲得交渉を行う必要があります。筆者の経験から具体的な例を挙げれば、国際協力機構(JICA)が募集する「人材育成奨学計画」に関するものがこれに該当します。この計画は、日本政府が各国に拠出するODA資金の一部を活用し、将来的に各国の開発に貢献する人材を日本国内で育成することを目的として1999年に開始されました。「カンボジア・経済分野2名」といった具体的な枠が大学ごとに設けられることがあり、大学側は毎年この枠を確保すべく交渉に努めています。
まとめ:奨学金制度の多層性と誤解の解消
外国人留学生への奨学金制度は、「一部の学生が優遇されている」といった単純な批判では捉えきれない、多層的で複雑な仕組みを持っています。文部科学省による国費留学生は全体のごく一部に過ぎず、その選考も厳格かつ入学前に行われます。また、文科省以外にも様々な機関が奨学金を提供しており、その獲得プロセスも多岐にわたります。こうした事実を知ることで、外国人留学生を巡る奨学金に関する誤解が解消され、より客観的かつ建設的な議論へと繋がることを期待します。