米国、ウクライナへの軍事支援再開へ パトリオット供与で合意

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は11日、米国が一時停止していた軍事支援を再開したと発表した。これは、ロシアによるウクライナへの空爆が激化する中で行われたものであり、米国のドナルド・トランプ大統領は10日、NBCニュースに対し、北大西洋条約機構(NATO)を通じてパトリオット地対空ミサイルシステムをウクライナに供与することで合意したことを明らかにしていた。この動きは、ウクライナの防空能力強化に繋がる重要な進展と見られている。トランプ大統領はさらに、14日にも「ロシアに関する重大な声明」を発表すると予告しており、今後の展開が注目される。

米国の軍事支援再開とパトリオット供与の詳細

ゼレンスキー大統領は11日夜の定例ビデオメッセージで、「欧州の新しい防衛パッケージ」に言及し、来週には米国のキース・ケロッグ特使とウクライナ軍が協議する予定だと述べた。この新たな支援パッケージには、米国からの軍事装備が含まれるものと見られる。

一方、トランプ大統領が明らかにしたパトリオットミサイルシステムの供与は、NATOを介して行われるという。NATOが米国からパトリオットを購入し、その費用はNATOが「全額負担」する形でウクライナに供与される合意内容となっている。NATOは米国を含む加盟国からの拠出金によって運営されている組織であり、このスキームは米国の直接支出を避けつつ、ウクライナへの重要な防空能力を提供することを可能にする。

ゼレンスキー氏はまた、ローマで開かれたウクライナ復興支援会議の場で10日、ドイツが2基、ノルウェーが1基のパトリオット購入費用を負担する用意があると述べていた。これは、欧州諸国もウクライナの防空能力強化に対し積極的な姿勢を示していることの表れであり、米国以外の同盟国からの支援も継続される見込みだ。

ロシアによる攻撃激化とウクライナの防空ニーズ

ロシアはここ数週間、ドローンとミサイルを用いたウクライナの都市への攻撃を著しく強化している。これにより、ウクライナ国内での民間人の死傷者数は過去最多を記録しており、人道危機が深刻化している。

国連の発表によると、6月のウクライナにおける民間人の死傷者数は、過去3年間で最多となる死者232人、負傷者1300人以上に上った。ゼレンスキー大統領は、ロシアが8日夜に過去最多となる728機のドローンをウクライナに投下したことに触れ、「ロシアはこれを1000機に増やそうとしている」と強く警告を発していた。

ロシア軍の空爆により被害を受けたキーウの集合住宅ロシア軍の空爆により被害を受けたキーウの集合住宅

こうした攻撃の激化に対し、ゼレンスキー氏はかねてより、パトリオットシステムや精密誘導砲弾などの供給停止がウクライナの防衛に与える影響について懸念を示してきた。特に、ロシアの攻撃激化を受けて、パトリオットシステム10基の供与を国際社会に要請していた。パトリオットは、接近するミサイルを探知・迎撃する能力に優れた世界有数の防空システムとされており、ウクライナがロシアの猛烈な空爆から国民やインフラを守る上で極めて重要な装備となっている。

主要人物の発言と外交活動

今回の米国による軍事支援再開とパトリオット供与の合意は、和平実現を目指すトランプ政権が、ロシアによる空爆の連日の激化に対し、いら立ちを募らせている状況が背景にあると見られる。

トランプ大統領は7日夜、「ウクライナは今、とても厳しい攻撃を受けている」と述べ、兵器の追加供与に前向きな姿勢を示していた。さらに、3日にはロシアのウラジーミル・プーチン大統領と電話会談を行った後、戦闘終結に向けた「進展はなかった」と不満をあらわにし、8日には「プーチンはこちらに、やたらとたわごとを投げてくる。彼はいつも我々に優しいが、それは結局、意味がないんだ」とロシアへのいら立ちを隠さなかった。

マルコ・ルビオ米国務長官も11日、ドイツやスペインなどのNATO同盟国に対し、保有するパトリオットシステムの一部をウクライナに提供するよう促したことを明らかにした。ルビオ長官は、同盟国が保有する兵器を提供すれば、より早くウクライナに到着することを理由に挙げ、「すでに備蓄している同盟国が兵器を提供するよう、促し続けている。そうすれば、代替品の購入資金のやりとりについて合意を結ぶことができる」と説明した。

ルビオ長官は10日、マレーシアで開かれた会議の合間にロシアのセルゲイ・ラヴロフ外相と「率直な」会話を交わしたとも述べている。長官は、和平交渉の進展が見られないことにトランプ大統領が「いら立っている」と述べ、自身も同じ気持ちであることを表明。「この紛争を終結させるために、ロシア側により柔軟性が見られないのは残念」との認識を示した。ルビオ長官は、ラヴロフ外相と紛争終結に関するいくつかの新しいアイディアを交換し、トランプ大統領に報告する意向だと述べた。しかし、トランプ大統領が14日に発表を予告している「ロシアに関する重大な声明」の内容については明らかにしなかった。

パトリオット供与の背景と課題

ニューヨーク・タイムズ紙は、匿名のアメリカ政府筋の情報として、かつてイスラエルに配備されていたパトリオットシステムを米国で改修した後にウクライナに送る予定だと報じている。イスラエルが保有していたパトリオットに関する交渉は以前から進められており、ウクライナ高官は6月の時点で米国に送られたが、まだウクライナは受け取っていないと述べていたとされる。

パトリオットシステムとその迎撃ミサイルは、ロシアの巡航ミサイルや弾道ミサイルからウクライナの都市や重要インフラを守る上で、極めて重要な役割を担っている。ウクライナは、パトリオットを旧ソ連製のS-300や西側製のNASAMSといった地対空ミサイルシステムと組み合わせて、「多層防空」体制を構築しており、パトリオットは特に高性能なレーダーと追尾能力、高い迎撃率でこの防衛網の中核を成す。

一方で、パトリオットは1基あたり約10億ドル(約1470億円)と非常に高価であるため、西側の保有国が提供に慎重になる要因の一つとなっている。しかし、ウクライナ軍はすでにパトリオットの運用方法を習得しており、2022年2月のロシアによる全面侵攻開始以降、ウクライナ政府が繰り返しパトリオットの供与を要請した結果、最初の2基が2023年4月に供与されている。現在の正確な配備数は極秘情報とされているが、パトリオットシステムの配備が増えるごとに、より多くの都市や軍事基地、発電所などを防空網の傘下に入れることが可能になる。

ウクライナは広大な国土を有しており、そのすべてや国民全員を完全に守ることは困難ではあるものの、ロシアが空爆の頻度と規模を共に激化させる中、欧米諸国は防空支援の緊急性を認識し、対応を強化している様子がうかがえる。

トランプ大統領は今年1月にホワイトハウスに復帰して以来、ウクライナへの支援を縮小する方針を示してきた経緯がある。しかし、今回のパトリオット供与合意は、状況の変化に対応したものであると考えられる。ドイツのキール研究所のデータによると、米国は2022年初頭から2024年末までに約690億ドル(約10兆1700億円)相当の軍事支援を行っており、ウクライナにとって最大の支援国であった。

また、トランプ氏はかねてより、NATO加盟国に対し、国内総生産(GDP)に占める防衛費の割合を増やすよう強く求めてきた。これに応える形で、6月下旬に開かれたNATO首脳会議では、加盟各国が防衛費をGDP比5%まで引き上げることで合意しており、同盟全体の防衛能力強化への機運が高まっている。

まとめ

今回の米国によるウクライナへの軍事支援再開、特にNATOを介したパトリオットミサイルシステムの供与合意は、ロシアの攻撃激化という厳しい状況下にあるウクライナにとって重要な意味を持つ。トランプ大統領、ゼレンスキー大統領、ルビオ国務長官らの発言からは、ウクライナの防空ニーズの高さ、ロシアの攻撃への国際社会の懸念、そして和平への道のりの難しさが浮き彫りになっている。イスラエル保有システムの改修・供与の可能性も報じられており、様々なルートでの支援が模索されている。NATO加盟国の防衛費増額合意なども含め、ウクライナ情勢を巡る国際的な動きは依然として活発であり、トランプ大統領が予告する「ロシアに関する重大な声明」の内容を含め、今後の動向が注視される。

引用元:
(c) BBC News
Source link: https://news.yahoo.co.jp/articles/466068a9d223ba1f3bbb6f96d1e9c740a21a6f16