参政党が都議選、参院選で存在感を増し、支持を拡大しています。『SNS選挙という罠』の著者、文筆家の物江潤氏は、彼らの戦略が単にSNSでの人気に留まらず、倫理的な危うさを含む巧妙さがあると指摘します。
神谷宗幣代表の組織基盤:「龍馬プロジェクト」
物江氏は、参政党の神谷宗幣代表には十数年前から面識があるといいます。神谷氏は2007年に吹田市議会議員となった後、2010年に地方議員によるネットワーク「龍馬プロジェクト」を立ち上げました。このプロジェクトには20代から40代の地方議員200名以上が参加しており、この経験が参政党の全国的な地方組織を迅速に構築するためのノウハウと基盤を提供しました。
2025年7月、日本記者クラブでの記者会見に臨む参政党の神谷宗幣代表
SNS戦略と初期のリスクテイク
参政党は結成以来、SNSを駆使して支持を促すためのストーリーを展開しています。黎明期には、反ワクチンなど、当時社会的議論の的となっていた「危うい」トピックにも積極的に踏み込みました。これはある種のリスクを伴う戦略でしたが、特定の層からの強い支持を集めることに成功し、初期の支持層拡大に繋がりました。
ソフト路線への転換と曖昧な言葉の利用
存在感を増すにつれて参政党への批判も強まりましたが、これに対し党は戦略的にソフト路線へと転換しています。例えば、初期に前面に出していた反ワクチン的な主張は、現在ではホームページなどで「薬やワクチンに依存しない治療・予防体制強化で国民の自己免疫力を高める」といった表現に変わっています。これは、反ワクチン的な思考を持つ人には「ワクチンに反対している」と受け取られる一方で、一般の人にも違和感なく受け入れられやすいように工夫された表現です。
さらに、「反グローバルエリート」「反グローバリズム」といった抽象的な言葉を多用している点も物江氏は指摘します。これらの言葉は多様な解釈を許容するため、受け手が自身の都合の良いように内容を解釈できます。ある人は反ワクチンと結びつけて巨大製薬会社への批判だと捉えるかもしれませんし、一部の保守派は戦後WGIP(ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム)によって骨抜きにされた日本を取り戻す思想だと解釈するかもしれません。このように、イメージ先行の曖昧な言葉を用いる戦略が、幅広い層からの支持を引きつける要因となっています。
結論:効果的な、しかし倫理的に問われる戦略
物江潤氏は、参政党の支持拡大は、神谷代表の組織力、SNSを巧みに利用したストーリーテリング、そして意図的に曖昧な言葉を用いる戦略の組み合わせによるものだと分析します。この戦略は確かに効果的で、多くの人々に響く可能性を秘めていますが、その曖昧さが多様な(そして時に誤解を招く)解釈を生み出すことから、その倫理性が問われる側面もあると結論づけています。