お笑いトリオ「コント赤信号」のメンバーであるラサール石井氏(69歳)が、今夏の参議院選挙に社民党から比例代表として立候補しました。この選択に対し、多くの人々が「なぜ社民党なのか」という疑問を抱いているようです。
衰退する社民党:かつての主要政党から政党要件の危機へ
社民党は、前身である日本社会党の時代、戦後の1955年体制下で自由民主党と並ぶ二大政党の一翼を担い、長らく野党第一党の地位にありました。しかし現在、社民党に所属する国会議員は衆議院1名、参議院2名の合計わずか3名にまで減少しています。
政治部記者によると、社民党の参議院議員のうち、党首の福島瑞穂氏(69歳)は今回の改選対象ではありません。もう1人の参議院議員である大椿裕子氏(51歳)が比例代表として出馬しています。しかし、大椿氏は6年前の参議院選挙では一度落選しています。
大椿氏は現職の社民党副党首ですが、なぜ一度落選したのでしょうか。2019年の参議院選挙で社民党は比例代表で1議席分となる2.09%の得票率を得ました。この結果、比例名簿1位だった吉田忠智氏(69歳)が当選しました。同じく比例区で出馬した大椿氏は党内4候補中4番目の得票数だったため落選しました。しかし、吉田氏は翌年12月に社民党を離党し、立憲民主党に移籍しました。
ちなみに、社民党の第4代党首を務めた吉田氏だけでなく、第5代党首だった又市征治氏(故人・元参議院議員)もその後立憲民主党へ移っています。離党した吉田氏が2023年4月の参議院大分選挙区補欠選挙に出馬するため議員辞職したことにより、社民党の比例名簿からの繰り上げ当選が発生しました。通常であれば2019年の比例名簿で2位の候補者が繰り上げ当選するはずでしたが、2位、3位の候補者もすでに離党して他党に所属していたため、名簿順位4番目だった大椿氏が繰り上げ当選することになったのです。繰り上げ当選からわずか2年での改選となります。元党首を含む党員が次々と離党している社民党の現状は厳しいと言えます。
政党要件死守のための「客寄せパンダ」擁立か?
このように厳しい状況にあるため、社民党は今回の参議院選挙で必死です。もし得票率が2%を下回った場合、政党要件を失い、ただの政治団体となってしまいます。政党要件を失うと、政党交付金が得られなくなり、党の運営はさらに困難になります。6年前の参議院選挙における大椿氏の個人得票数は約1万5000票でした。この得票数では、単独で得票率2%を確保するのは覚束ない状況です。
参院選に社民党から出馬するタレントのラサール石井氏
そのため、知名度の高いラサール石井氏を擁立したのではないか、という声がもっぱら聞かれます。いわば、党の知名度アップと票の掘り起こしを狙った「客寄せパンダ」的な役割を期待されているという見方です。
しかし、7月5日、JR大森駅(東京・大田区)前で行われたラサール氏の街頭演説会は、多くの聴衆が集まるという状況にはありませんでした。ロータリーに集まったのは20名弱の聴衆で、閑散とした雰囲気の中、ラサール氏は街宣車の上から声をかけました。
ラサール氏は演説の冒頭で、「どうも、ラサール石井です。参院選では社民党の全国比例より出ております」と挨拶。続けて、「予定では開始が10時45分だったんですかね。えー、これがちょっと、15分ほど遅れました。申し訳ございません」と、早速の遅刻を謝罪しました。
都心から大森までは道路の混み具合で到着時間が変わることもありますが、なぜ大森を選んだのでしょうか。ラサール氏はその理由を語りました。「私はこの大森に、2年前まで7年間、住んでおりました。もうここら辺は本当に懐かしい庭のような場所でございます。この辺の道も、毎日、歩いておりましたので、私のことを目撃したこともあるかもしれません。その時に仏頂面だったら、本当に申し訳ない。こんなことになるなら頭を下げながら歩いておけばよかったと後悔しております。」と、地元ゆかりの地であることをアピールしました。
参院選に向け、大森駅前で街頭演説を行うラサール石井氏。集まった聴衆は20名ほどと少なく見えた。
集まった聴衆は少なかったものの、地元ゆかりの地での演説という「掴み」は良かったと言えるでしょう。ラサール氏は長年、舞台の脚本や演出も務めており、特に志村けん氏のライフワークだった舞台「志村魂」では、初回の2006年から最後となった2019年まで脚本と総合演出を手掛けるなど、観客を引きつける話術や構成力には定評があります。その経験が街頭演説でも生かされている様子でした。
結論:厳しい現実の中での挑戦
ラサール石井氏の社民党からの参院選出馬は、党の政党要件死守という切実な事情と、候補者の知名度による突破口開拓への期待が背景にあると見られます。しかし、街頭演説会に見られた聴衆の少なさは、その挑戦が容易ではない現実を示唆しています。社民党が党の存続をかけたこの選挙戦で、ラサール氏がどのような役割を果たし、どのような結果をもたらすのか、注目が集まっています。