ドナルド・トランプ元米大統領が世界経済に仕掛けた「関税戦争」は、その終盤を迎えました。この貿易摩擦が各国にどのような影響を与え、各国がいかに対応したのか、その「成績表」を評価することは極めて重要です。本稿では、韓国の通商専門家5人が評価した主要国の関税交渉成績を基に、各国の戦略とトランプ政権の貿易政策の本質を深く掘り下げていきます。
主要国の交渉成績と背景にある戦略
韓国の通商専門家たちが、米国との関税交渉を妥結または進行中の主要国(G7に加え一部国)の交渉成績を分析し、評価を付与しました。この評価は、各国の経済力、外交手腕、そして戦略的資産の活用能力を浮き彫りにしています。
高評価国:迅速性と戦略的資産の活用
英国:「A-」
英国は最も高い評価の一つ「A-」を獲得しました。国際法秩序研究所のチョン・ハヌル代表は、「米国が貿易秩序体制を根本的に変革しようとしていると判断し、迅速に交渉を締結した」と指摘しています。米国が英国との貿易で145億ドルの黒字を出していることも、交渉を円滑に進める要因となりました。英国の迅速な判断と対応が功を奏した形です。
中国:「A-」
同じく「A-」と評価された中国は、関税戦争が勃発した後も米国とほぼ対等な交渉構造を維持しました。淑明女子大学経済学部のカン・インス教授は、「レアアースを武器に、半導体やバッテリーなど米国の核心産業の弱点を圧迫した」と分析。資源や市場規模といった戦略的資産を交渉のテコとして巧みに活用した好例と言えます。
ドナルド・トランプ元米大統領の肖像写真。関税政策と貿易交渉戦略の中心人物として、その表情は世界の貿易摩擦を象徴しています。
中評価国:核心産業保護と賢明な対応
欧州連合(EU):「B+」
EUは「B+」の評価を受けました。カン・インス教授によると、EUは「半導体や航空機といった戦略品目で無関税を確保し、核心産業を保護しつつ、エネルギー輸入先を多角化した」と評価されています。これにより、米国からの圧力に対して一定の防衛ラインを築くことができました。
日本:「B0」
日本は「B0」と評価されました。GS&Jインスティテュートのソ・ジンス院長は、日本が大規模ファンドを活用して米国の歓心を買う一方で、「賢く交渉に臨んだ」と評しています。日米間の貿易摩擦は過去にも存在しましたが、今回は戦略的な対応で大きな打撃を回避したと見られます。
カナダ:「B0」
カナダも「B0」評価で、トランプ関税の直撃を受けながらも、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)をテコに妥協点を引き出した点が評価されました。既存の貿易協定を巧みに活用し、自国の利益を最大限に守ったケースです。
インド:「B-」
「B-」と評価されたインドは、中国牽制を意図した米国のインド太平洋戦略構想を担保に交渉を主導しました。高麗大学国際学部のキム・フンジョン特任教授は「インドはもともと交渉家として有名だ」と述べ、その外交手腕が関税交渉でも発揮されたことを示唆しています。
低評価国:大統領の対立が招いた高関税
ブラジル:「C+」
ブラジルは7カ国の中で最も低い「C+」の評価を受けました。ブラジルのルーラ大統領がトランプ大統領と対立した結果、50%もの高関税を通告される事態に陥りました。トランプ大統領は、ブラジル政府がボルソナロ前大統領を政治的に弾圧していることをその理由として挙げました。高麗大学経済学科のカン・ソンジン教授は、「ブラジルは国民が影響を受ける決定をする事例が度々ある」と指摘し、政治的対立が貿易関係に悪影響を与えた典型例とされています。
主要国以外の国々を巻き込んだ関税の嵐
主要国以外の国々も、トランプ政権の関税の嵐に巻き込まれました。
- スイス: 突然39%という高率の相互関税を通告されました。スイスのズッター大統領が首脳間の電話会談で誠意を見せなかったため、トランプ大統領が既存の31%からさらに引き上げたという経緯があります。
- 台湾: 韓国や日本の15%を上回る20%の相互関税を通告され、衝撃を受けました。
- ラオス: 一人当たりGDPがわずか2100ドルで米国との貿易量も少ないにもかかわらず、関税率が40%に達しました。
- レソト: 最初の相互関税発表時には50%と最も高かったものの、今回は15%まで大幅に引き下げられました。
トランプ関税政策の本質
税率、適用時期、例外品目など、関税に関するすべての決定がトランプ大統領の意のままに下されたため、どの国も関税の正確な基準を把握できませんでした。この状況から、当初から関税が単なる交渉道具に過ぎなかったという解釈が有力視されています。
世界貿易機関(WTO)副事務局長を務めたピーターソン国際経済学研究所(PIIE)のアラン・ウォルフ上級研究員はAP通信に対し、「今回の交渉の真の勝者はトランプだ。彼は脅迫を通じて他国を交渉テーブルに引き出すことができると予想し、その戦略は劇的に成功した」と語っています。
結論
トランプ元大統領が展開した関税戦争は、多くの国々に多大な影響を与えましたが、その本質は「関税を交渉の道具として最大限に活用し、自国の利益を追求する」というトランプ流の強硬な外交戦略にあったと言えるでしょう。各国が示した様々な交渉成績は、それぞれの国の経済規模、外交力、そして戦略的資産の有無が、国際貿易における圧力に対する耐性を大きく左右することを示唆しています。この分析は、今後の国際政治経済の動向を予測する上で、重要な教訓となるはずです。
参考文献
- 中央日報 日本語版: https://japanese.joins.com/
- Yahoo!ニュース (元記事): https://news.yahoo.co.jp/articles/164fd769a8e39dfa7f2f853aedac4db7f974c312
- AP通信 (引用元)
- ピーターソン国際経済学研究所 (PIIE)