2015年まで100万人を超えていた日本の年間出生数は、この10年で急減し、2024年には70万人を割り込む見通しです。近年、少子化対策が国家的な課題として強く意識されるようになりましたが、青山学院大学法学部教授の木山泰嗣氏は、2010年以降、子育て世代が税制上「冷遇」されてきた事実があまり報じられていないと指摘します。この税制の「ねじれ」が、現在の少子化問題に深く影響を与えている可能性があります。
「扶養控除」制度が抱える根本的な問題点
「扶養控除」は、憲法25条が保障する「生存権」を税制で実現するための「生活費控除の原則」の表れです。所得者だけでなく、扶養する子どもなどの家族がいる場合にも最低限の生活費がかかるため、これに課税しないことで生存権の保障を図るのが目的です。しかし、旧民主党政権時代の平成22年(2010年)に導入された「子ども手当」(現在の児童手当)の存在が、日本の所得税制に大きな歪みをもたらしました。
日本の少子化問題を示唆する親と子のイメージ写真
「年少扶養控除」廃止が子育て世帯にもたらした不利益
現在の「扶養控除」制度には、子どもを育てる親であっても、子どもが高校生になるまで「扶養控除が全くない」という重大な問題が残されています。平成22年(2010年)の税制改正までは、0歳から15歳までの子どもを扶養する親には「年少扶養控除」が存在し、子ども一人あたり38万円が「理論所得」から控除される「所得控除」として機能していました。これは、子育て世帯にとって重要な税制上の恩恵でした。
「子ども手当」と「児童手当」の混乱が残した爪痕
この「年少扶養控除」は、「子ども手当の給付が始まるから、もう不要ではないか」という議論のもと、平成22年(2010年)の税制改正で廃止されました。「子ども手当」は2010年4月に導入され、従来の「児童手当」の対象や金額を拡大し、所得制限を設けずに0歳から15歳までの子どもを対象とする制度でした。
しかし、2012年3月にはこの「子ども手当」が廃止され、結局、「所得制限」が設けられた「児童手当」へと戻されました。これは、全員への「子ども手当」給付が財源不足をもたらすことが明らかになったためです。この結果、「所得制限」の対象となった親は「児童手当」を一切もらえなくなったにもかかわらず、かつて存在した子ども一人あたり38万円の「年少扶養控除」は戻らないままにされました。
税制の矛盾が子育て世帯を直撃
この一連の「子ども手当」を巡る政策の混乱は、皮肉なことに、子どもを育てるための「最低生活費」が所得税額の計算時に何も「控除」されず、なおかつ手当の支給もないという、税制上の「ねじれ」を生み出してしまいました。
現在の少子化問題に対応するためには、単に手当の増額だけでなく、子育て世帯が直面しているこのような税制の矛盾、特に扶養控除の空白期間がもたらす負担を解消することが不可欠であると言えるでしょう。
参考文献
木山泰嗣『ゼロからわかる日本の所得税制』(光文社新書)