従業員の「退職理由」を深掘り:データが示す本音と人間関係の課題

人材採用、マネジメント、そして職場での人間関係の課題解決に取り組む連載の第11回として、今回は「退職理由の本音と建前」という、組織運営において極めて重要なテーマに迫ります。部下の離職を未然に防ぎ、さらには職場の人間関係を活性化するためのヒントは、この「本音」の中に隠されています。従業員が本当に会社を辞める理由は何なのか、その真実をデータに基づいて考察し、離職防止の第一歩となる視点を提供します。

「退職理由」に潜む「本音と建前」の大きなギャップ

皆さんの職場で従業員が退職する際、どのような理由を耳にしますか。「結婚のため」「家庭の事情」といった表面的な理由に納得してしまってはいないでしょうか。実は、多くの「退職理由」には、口に出される「建前」と、心の内にある「本音」との間に大きなギャップが存在します。この本音の部分を理解せずして、真の離職対策や人材定着は望めません。

データが語る「退職理由」の真実:人間関係が常に上位に

このギャップを明確に示すいくつかの調査データを見てみましょう。

  • 2016年の転職者本人調査では、建前の退職理由の第1位は「結婚、家庭の事情」でした。しかし、本音の第1位として浮上したのは「職場の人間関係」だったのです。
  • 2019年の転職コンサルタントへの調査では、転職希望者が語る建前の第1位は「仕事の領域を広げたい」でした。一方で、彼らが挙げた本音の第1位は「報酬を上げたい」、そして第2位には「上司と合わない」「職場の人間関係が合わない」といった理由が続きました。
  • 2024年のエン・ジャパンによる本人調査では、建前として「別の職種にチャレンジしたい」が第1位、同率2位に「人間関係が悪い」「家庭の事情」が挙がりました。しかし本音では、ダントツの第1位が「人間関係が悪い」であり、次いで「給与が低い」「会社の将来性に不安を感じた」という結果でした。

これらのデータが示す通り、時代や調査対象は異なっても、「職場の人間関係」に関する問題は、従業員の退職における本音の理由として常に上位に位置していることが明らかです。

退職を考える従業員のイメージ:職場での人間関係の悩みが反映された表情退職を考える従業員のイメージ:職場での人間関係の悩みが反映された表情

「人間関係の問題」が意味するもの:多岐にわたる課題

「人間関係」という言葉は広範ですが、具体的な退職理由として人事コンサルタントとしての経験からも多く見受けられるのは、以下のようなケースです。

  • 「上司と合わない」
  • 「同僚とウマが合わない」
  • 「経営者の思想と合わない」
  • 「組織文化に合わない」

特に「組織文化」は、突き詰めればその組織を構成する人々の集合的なあり方によって規定されるものですから、これも広い意味での人間関係の問題と捉えることができます。

本音を見抜く重要性:離職防止と組織活性化のために

辞めていく従業員の表面的な「建前の理由」をそのまま受け止めていては、企業は組織内部に潜む本当の課題に気づくのが遅れ、結果として離職を食い止める機会を逸してしまうことになります。退職の本音と建前を深く考察することは、単に離職率を下げるだけでなく、従業員エンゲージメントを高め、職場のコミュニケーションを活性化し、より健全な組織文化を育むための第一歩となります。

結論

従業員の退職理由には、公にされる「建前」と、真の「本音」との間に大きな隔たりがあります。そして、多くのデータが示す通り、その「本音」の多くは「職場の人間関係」に起因しています。この事実を深く理解し、表面的な理由の裏にある真の課題に目を向けることこそが、効果的な離職防止策を講じ、組織を改善するための鍵となります。本稿で提起した「退職理由の本音と建前」の理解は、これからの人材戦略において不可欠な視点となるでしょう。

参考文献

  • 2016年 転職者本人調査
  • 2019年 転職コンサルタント調査
  • 2024年 エン・ジャパンによる本人調査