安倍元首相銃撃事件:山上被告、初公判で殺人罪認める 動機解明と司法解剖の詳細

2022年7月に発生した安倍晋三・元首相銃撃事件を巡り、殺人罪などに問われている山上徹也被告の初公判が10月28日、奈良地方裁判所で裁判員裁判として開かれました。被告は罪状認否で「私がしたことに間違いありません」と殺人罪を認めたものの、弁護側は手製の銃が銃刀法の規制対象外であるとし、銃刀法違反の発射罪については無罪を主張しています。この歴史的な裁判は、社会に大きな衝撃を与えた事件の真相解明に向け、重要な一歩を踏み出しました。

山上徹也被告が安倍元首相銃撃事件の現場で捜査員に取り押さえられる瞬間山上徹也被告が安倍元首相銃撃事件の現場で捜査員に取り押さえられる瞬間

検察側が明かした山上被告の犯行経緯と動機

初公判の冒頭陳述で、検察側は山上被告が犯行に至った経緯と動機について、以下のような事実を立証すると述べました。

統一教会と家庭崩壊

山上被告の母親が「統一教会」(現・世界平和統一家庭連合)に入信し、高額な献金を繰り返したことで家庭が崩壊。被告は大学進学を断念せざるを得なくなり、職を転々とする中で、「人生が思い描いたようにいかないのは、母の入信が原因だ」という強い恨みを抱くようになりました。さらに、2015年に被告の兄が自殺したことも、彼の統一教会への憎悪を決定的なものにしたとされています。

標的変更と周到な準備

統一教会に強い恨みを抱いた山上被告は、当初、教団の最高幹部を襲撃するため、拳銃を10丁製造しました。2019年には愛知県で韓鶴子(ハン・ハクチャ)総裁の殺害を計画しましたが、これは失敗に終わります。その後、新型コロナウイルスの流行により、幹部襲撃の計画を断念せざるを得なくなりました。

そこで山上被告は、「首相経験者として知名度の高い安倍氏を襲撃すれば、社会の注目が集まり、統一教会への批判が高まるだろう」と考え、標的を変更しました。岡山市での銃撃を試みたものの、安倍氏に接近できずに断念。その後、安倍氏が奈良市に立ち寄ることを知り、近鉄大和西大寺駅前で手製銃を発砲し、殺害に至ったと検察は主張しました。検察側は、白昼堂々、元総理大臣を殺害した本事件を「戦後史上、類を見ない極めて重大な事件」と厳しく糾弾しています。

安倍元首相の死因に関する医師の証言

10月30日に行われた第3回公判では、安倍氏の遺体を司法解剖した医師が証人尋問に立ちました。医師の証言によると、2発の弾丸が安倍氏の左上腕部と首付近に命中。読売新聞オンライン(10月31日配信)が報じた医師の証言は以下の通りです。

「左上腕から体内に入った弾丸が、鎖骨付近の動脈を損傷したことが致命傷になったとし、山上被告が撃った弾丸で安倍氏が死亡したことに『矛盾はない』とした。この弾丸が体内から見つかっていないことについて、医師は『救急手当ての際、胸の中の血を吸引する時に弾丸も一緒に吸引されたとしか思いつかない』と述べた」

この証言は、山上被告の犯行が安倍氏の死因に直接的に繋がったことを裏付けるものであり、裁判における重要な証拠となるでしょう。

結論

安倍元首相銃撃事件の初公判では、山上徹也被告が殺人罪を認める一方で、弁護側が銃刀法違反については無罪を主張するという、複雑な展開を見せました。検察側は、統一教会への恨みから家庭崩壊に至り、最終的に安倍元首相を標的とした詳細な動機と計画を提示。また、司法解剖を担当した医師の証言により、安倍氏の死因と山上被告の犯行との間に明確な因果関係が示されました。この極めて重大な事件に対する社会の関心は依然として高く、今後の公判におけるさらなる事実解明が待たれます。

参考資料