米国政府が韓国政府に対し、自国の製造業再建を後押しするための大規模な投資ファンド設立を求めていることが明らかになりました。これは、韓国企業が米国に工場を新設・増設したり、現地企業に投資したりする際の財源として活用される「製造業協力強化ファンド」を、韓国政府の主導で立ち上げることを要求するものです。農畜産物市場の追加開放や精密地図持ち出し許可など、これまでの貿易障壁緩和とは全く異なる次元の、異例ともいえる要求に、韓国政府は対応を迫られています。
貿易交渉に持ち上がった新たな要求
米国政府は今月初め、ワシントンで行われた米韓関税交渉において、この製造業協力強化ファンドの立ち上げ案を初めて要求しました。米国側は、過去の対米関税交渉の過程で日本が提案した「対米投資ファンド」設立案に言及したと報じられています。日本が提案したとされるファンドの規模は、およそ4000億ドル(現在のレートで約60兆円)とされています。米韓両国が同程度の対米黒字を出していることから、米国は韓国に対しても同規模のファンド設立を要求したと伝えられています。
この要求は、ドナルド・トランプ米国大統領が今月7日に日本や韓国などに対し、「来月1日から25%の相互関税をかける」という最後通告を行い、交渉を押し付ける中で浮上しました。大統領が国内向けに「確実な成果物」として掲げることを目的とした、新たな要求と解されています。相互関税が課される8月1日までわずか半月に迫る中、今年の国家予算の8割を超える天文学的な規模のファンド設立を要求された韓国政府は、その財源準備案を巡って苦心しています。韓国政府内から「米国のハワード・ラトニック商務長官が韓国に受け入れがたい提案をしており、交渉が先に進まない」という声が上がったのも、米国のこうした要求が背景にあると解釈されています。
米国と韓国の製造業投資協力の概念を示すドル紙幣と成長グラフのイメージ
トランプ政権が目指す「自国製造業の育成」
米国政府による製造業強化ファンド設立要求は、7月7日および10日の2度にわたってワシントンで開催された米韓両国の高官級通商交渉で初めて言及されたことが確認されています。当時、ラトニック商務長官と2度会談した韓国産業通商資源部の呂翰九(ヨ・ハング)通商交渉本部長は、交渉後に「両国の製造業協力強化案を深く話し合った」と明かしました。ある政府関係者は、「韓国政府は、相互関税と自動車関税をできる限り抑えるため、農産物などさまざまな非関税障壁の緩和アイデアを準備していた。だが、ラトニック長官はファンド設立案にこだわりを見せた」と語っています。
韓国政府の苦慮と「ポジティブ・サム」の模索
呂翰九本部長は7月14日の記者懇談会で、交渉の現状について説明しました。「造船、半導体、バッテリーなどの韓国企業が米国に投資し、米国製の先端機器を購入することは、米国が望む両国の製造業協力と密接な関係がある」と述べた上で、「投資や購入は民間企業が判断する領域だが、韓国政府も後ろからこれを促進する『プラットフォーム』を構築し、補助する役割に焦点を合わせている」と語りました。この発言は、米国が要求するファンド設立を示唆するものと解釈されています。
さらに呂本部長は、「単に『関税を〇%下げる』という方式の交渉よりも、米国の製造業再建を助けつつ、韓国企業の(対米進出を通した)新たな成長動力を確保する『ポジティブ・サム(Positive-sum)』の交渉ができる」とも述べました。これは、韓国政府主導で立ち上げたファンドで韓国企業の米国進出を支援し、製造業協力を引き出すことで、関税引き下げを推進したいという意味だと解釈されています。
米国からの巨額ファンド設立要求は、米韓間の貿易交渉に新たな局面をもたらしています。韓国政府は、この異例かつ大規模な要求に対し、国家財政への影響を最小限に抑えつつ、米国の要求に応える方策を模索するという難しい課題に直面しています。今後の交渉の行方は、両国の経済関係だけでなく、国際貿易秩序にも大きな影響を与える可能性があります。
参考文献:
- 朝鮮日報日本語版, 「米、韓国に「巨額製造業投資ファンド」設立を要求」, 2025年7月16日.
- Yahoo!ニュース, https://news.yahoo.co.jp/articles/e267b8ab914ddd7eeef05e7454564adc43e35e5a