重い心臓病を抱えミャンマーで生まれた日本人の赤ちゃんが、国境を越えたクラウドファンディング(CF)による支援を受け、日本での適切な手術に向けて医療搬送される見通しとなりました。多くの人々の願いが一つとなり、幼い命が救われる道が開かれました。
信ちゃんの誕生と過酷な状況
6月27日、ミャンマー北東部シャン州で、農家や貧困地域を支援する社会起業家・犬井智朗さんとミャンマー人の妻の間に、犬井信(いぬい・しん)ちゃんが誕生しました。ミャンマーはクーデターに伴う内戦や経済停滞、さらには地震にも見舞われるなど混乱が続いていますが、智朗さんは有機肥料の製造販売などを通じ、現地の人々に寄り添い、社会起業家の育成にも尽力しています。
信ちゃんは誕生間もなく、心臓の血管が生まれつき正常な状態とは逆に接続されている「完全大血管転移症」という難病を患っていることが判明。手術を行わなければ長く生きられないと診断されました。現地で緊急カテーテル手術などの対応が続けられましたが、根本的な治療には、高度な医療技術を持つ日本での手術が不可欠です。
巨額の医療搬送費用とクラウドファンディングの成功
酸素吸入器を装着した新生児が通常の民間航空機に乗ることは困難なため、搬送には医療用設備と専門スタッフを乗せた医療用チャーター便が唯一の選択肢でした。その費用は2,000万円を超え、犬井さん一家だけでは到底調達できない途方もない金額です。
この状況を受け、国内外から多くの支援が寄せられました。15日までに集まった寄付金は総額で2,100万円を超え、目標金額を上回る結果となりました。これにより、信ちゃんの日本への医療搬送が現実のものとなります。支援者によると、信ちゃんは家族と共に17日夜にミャンマーを出発し、18日朝には関西国際空港に到着。その後、救急搬送で大阪府内の病院へ向かう予定です。現在、信ちゃんの容体は安定しており、空路での搬送にも耐えうる状態にあるとされています。
心臓病を患いミャンマーから日本へ医療搬送される日本人赤ちゃん、犬井信ちゃん
家族の葛藤と「信」に込められた願い
信ちゃんの父である智朗さんは、医療対応に奔走する中で、「治療しても障害が残るかもしれない。そういった人生が息子にとって幸せなことなのか」と、自問自答を繰り返したこともありました。しかし、多くの支援者から寄せられた「信じてるよ」「きっと大丈夫」といった温かい言葉に、大きく背中を押されたといいます。信ちゃんの「信」という名前には、「どんな困難にも信念をもって、自分と人を信じて生き抜いてほしい」という両親の切なる願いが込められています。
余剰支援金の使途と未来への寄付
目標金額を上回って寄せられた支援金については、これからも続く信ちゃんの医療費や、家族の渡航・滞在費など、治療を継続するために必要な経費に充てられる計画です。さらに、余剰金は信ちゃんと同じようにミャンマーで病気の治療を必要としている子どもたちのために寄付される予定であり、今回の支援が新たな命を救うきっかけとなることでしょう。
今回の国境を越えた支援は、困難な状況下にあるミャンマーで生まれた幼い命に光を灯しました。信ちゃんが無事に日本へ到着し、根治手術を受けて健やかな成長を遂げることを多くの人々が心から願っています。
参考資料: