「ルフィ」闇バイト強盗:変貌した犯罪組織の実態と幹部公判結審

「ルフィ」などと名乗る指示役がSNSを通じて若者を集め、海外から遠隔で操った闇バイト強盗事件は、社会に大きな衝撃を与えました。この匿名・流動型犯罪(匿流(トクリュウ))の「先駆け」とされた犯罪グループの幹部公判が東京地裁で結審し、間もなく判決が言い渡されます。公判では、特殊詐欺から強盗へと手口を変容させたこの犯罪集団の恐るべき実態が明らかになりました。

「採用チーム」:SNSを駆使した実行役募集

「リクルートチームをまとめるよう指示され、SNSでかけ子や受け子を募集するようになった」。強盗致傷ほう助や詐欺などの罪に問われ、起訴事実を認めている幹部の小島智信被告(47)は、今月3日の被告人質問で、特殊詐欺の実行役を集めた経緯を語りました。

2023年2月9日、フィリピンから強制送還され羽田空港に到着した闇バイト強盗事件の幹部、渡辺優樹被告(右端)と小島智信被告(左から2人目)2023年2月9日、フィリピンから強制送還され羽田空港に到着した闇バイト強盗事件の幹部、渡辺優樹被告(右端)と小島智信被告(左から2人目)

被告の説明や検察側の冒頭陳述によると、この犯罪グループは2017年に渡辺優樹被告(41)がタイで設立した詐欺組織が始まりです。組織はまもなくフィリピンへ拠点を移し、小島被告は2018年夏に加わりました。渡辺被告から「パソコンや数字に強い」と評価され、2019年初めには特殊詐欺の実行役募集を任されることになります。採用チームは4人で構成され、各自がスマートフォン5台を所持し、当時「ツイッター」と呼ばれていたSNSで約30ものアカウントを作成しました。「高収入」「海外で働きませんか」といった投稿で応募者を募り、身分証と顔写真の送付を要求した上で電話面接を実施。採用された者は表計算ソフト「エクセル」で厳重に管理されていたとされます。

規模拡大と「稼ぎ」:月2億円超の裏側

組織は急速に拡大し、渡辺被告が12億円で購入した廃ホテルには、日本から集められた約60人もの「かけ子」たちが住み込み、詐欺行為を繰り返していました。その「稼ぎ」は、多い時で月2億円を超えることもあったといいます。小島被告は法廷で渡辺被告を「唯一無二のボス」と呼び、自身は渡辺被告の指示でスマートフォンの調達などを担う「雑用のエース」であったと語りました。また、藤田聖也被告(41)は2019年夏にグループに加わり、別の詐欺組織を率いていた今村磨人被告(41)は一時的に拠点を間借りしていた事実も明らかにされました。しかし、2019年11月にフィリピンの現地当局によってホテルが摘発され、逃走した渡辺、小島両被告も2021年4月に拘束されました。

強制送還回避工作:1億円超の「賄賂」

小島被告の供述によれば、強制送還を極度に恐れた渡辺被告は「日本に帰るくらいなら死んだ方がましだ」と話し、現地司法当局者に対して1億円以上の「賄賂」を支払ったとされます。この巨額の金銭を使い、自分たちが犯人となる虚偽の刑事事件をでっち上げ、被告という立場になることで強制送還を免れようと画策したといいます。この策略により、二人は一時的に日本への強制送還を回避していました。

今回の公判で明らかになった幹部たちの供述や検察側の主張は、闇バイト強盗事件の背後にある犯罪組織の巧妙な手口と実態を浮き彫りにしました。特殊詐欺から強盗へと犯罪形態を変えながら、SNSを悪用して実行役を募り、巨額の利益を上げ続けていた組織の全容が、判決を前に社会に提示された形です。この事件の結末は、今後の匿流犯罪対策にも大きな影響を与えることでしょう。


参考文献: