一般社団法人日本自閉症協会が、ある政党による「発達障害など存在しない」との主張に対し、強い懸念と批判を表明し、国内外の診断基準や日本の支援法に触れて反論しています。この発言は、当事者やその家族に不安と苦痛を与えていると指摘されており、問題視されている政党は参政党であることが明らかになっています。
日本自閉症協会、参政党への批判を明確化
日本自閉症協会は2025年7月16日の公式X(旧Twitter)投稿で、「そもそも発達障害など存在しない」と公言する政党の主張を「まったく間違っている」と断じました。協会は、世界保健機関(WHO)や米国精神医学会には発達障害の明確な診断基準が存在すること、さらに日本国内では超党派の議員立法によって発達障害支援法が成立していることを根拠に挙げています。
協会は続けて、「発達障害などないという根拠のない主張で私たち当事者や家族を苦しめないでください」と強く訴え、その深刻な影響に警鐘を鳴らしました。具体的な政党名は16日の投稿では伏せられていたものの、14日の投稿では既に「参政党の『発達障害など存在しません』発言により不安を覚えた当事者から当会にもメール等が届いております。断じて許す事は出来ません」と名指しで批判しており、参政党の発信に対する明確な懸念を示しています。
神谷宗幣代表の著書における記述
日本自閉症協会が問題視している発言の出典は、参政党代表である神谷宗幣氏が2022年6月に出版した『参政党Q&Aブック 基礎編』です。この書籍は、すでに絶版となっていますが、発達障害に関する記述が大きな論争を呼んでいます。
参政党の神谷宗幣代表の著書『参政党Q&Aブック 基礎編』。発達障害に関する記述が論争を呼んでいる一冊で、現在は絶版。
同書の中で、発達障害について「A. 通常の子供たちと全く同じ教育を行なえば問題ありません。そもそも、発達障害など存在しません」と記されています。さらに、人気アニメ『ドラえもん』の登場人物を例に挙げ、「それぞれキャラの個性と言えるものですが、現代では彼らは総じて発達障害の傾向があると見なされてしまうのです」といった見解を示しています。この記述は、科学的根拠に基づかない主張として、各方面から批判の声が上がっています。
専門家からの異論:同志社大学教授の見解
こうした参政党の主張に対し、専門家からも厳しい見解が示されています。同志社大学大学院ビジネス研究科教授である高広伯彦氏は、2025年7月9日に公開した自身のnote記事「参政党の『発達障害など存在しません』をどう考えるか?」の中で、この問題に言及しています。
高広氏は、発達障害を「障害」と捉えるか「特性」と捉えるかは見方によるとしつつも、「参政党の主張から想定される、彼ら・彼女らの含意による『発達障害は存在しない』は支持しない」と明確に述べています。さらに、このような考え方は「憲法・法令違反に繋がる」可能性も指摘しており、政治的な発言が社会的な規範や法的な枠組みと矛盾する危険性を示唆しています。
まとめ
日本自閉症協会による参政党への批判は、発達障害の存在とその支援の重要性を改めて浮き彫りにしました。科学的根拠に基づく診断基準や法整備が進む中で、「存在しない」という政治的発言は、当事者や家族の尊厳を傷つけ、社会的な混乱を招く可能性があります。今回の論争は、政治家が発信する情報が社会に与える影響の大きさを再認識させるとともに、正確な情報に基づく理解と支援の必要性を強調するものです。
参考文献: