トランプ氏のプーチン氏への態度変化:過去と現在の言動を徹底検証

ドナルド・トランプ前米大統領が、ロシアのプーチン大統領に対してかつてないほど厳しい姿勢を示し、ウクライナへの重要な武器供与を表明したことは、国際社会に大きな波紋を広げています。しかし、一方でロシア産石油購入国に対する経済制裁の発動には50日間の猶予を与えており、この「路線転換」がどれほどの持続性や深刻さを持つのか、その真意については依然として不透明な点が多く残されています。長年にわたりプーチン氏を擁護してきたトランプ氏の今回の言動の変化は、過去の歴史をある程度「塗り替える」可能性を秘めており、その背景と今後の影響が注目されます。

2018年7月、フィンランドのヘルシンキで開催された会談に臨む当時のトランプ米大統領とプーチン露大統領。両国の首脳会談の様子を示す一枚。2018年7月、フィンランドのヘルシンキで開催された会談に臨む当時のトランプ米大統領とプーチン露大統領。両国の首脳会談の様子を示す一枚。

「私はプーチンに騙されなかった」というトランプ氏の主張

トランプ氏はここ数日のうちに、プーチン大統領への批判のトーンを大きく変え、過去の発言とは一線を画すようになりました。14日にはホワイトハウスで、「プーチン氏は多くの人々を騙してきた。クリントン、ブッシュ、オバマ、バイデンといった歴代米大統領を騙したが、私は騙されなかった」と語り、自身だけがプーチン氏の真意を見抜いていたかのような姿勢を強調しました。

さらに、BBCとの最近のインタビューでは、プーチン氏を信用するかという質問に対し、一瞬の間を置いて「正直言って、私はほとんど誰も信用しない」と答えたと報じられています。この「間」は、トランプ氏が過去にプーチン氏に対して見せてきた特異な信頼関係を鑑みると、その言葉の裏に何らかの複雑な感情が隠されていることを示唆しているかのようです。

過去の「プーチン信頼」発言との顕著な乖離

しかし、トランプ氏が現在主張する「一度もプーチンを信用したことはない」という言葉は、彼の過去の具体的な発言と照らし合わせると、大きな矛盾をはらんでいます。例えば、2024年2月14日の時点では、「プーチン氏は和平を望んでいると確信する。彼のことはよく知っており、和平を望んでいると思う。望まないなら私にそう言うはずだ。この点について彼を信用している」とまで述べていました。これは、旧ソ連国家保安委員会(KGB)の元工作員であるプーチン氏に向けた言葉としては、極めて異例かつ強力な支持表明でした。

そのわずか2週間後、何らかの合意が成立した場合にプーチン氏が過去に何度もしてきた通り、その合意を破る可能性について問われると、トランプ氏はこれを明確に否定しました。彼は「プーチン氏は約束を守ると思う」と語り、自身の第1次政権下での「ロシア疑惑」の捜査を共に耐え抜いた仲間意識があるとの見方すら示唆していました。さらに、同年4月には米誌タイムとのインタビューで、プーチン氏が和平を結ぶかという質問に対し、「プーチン氏はそうする(和平を結ぶ)と思う」と、その可能性が高いとの見通しを述べていたのです。

態度の急変と行動の矛盾

ところが、現在はその態度をがらりと変え、プーチン氏がこれまで3~4回、合意が成立したと思わせた後に「はしごを外し」、ウクライナへの激しい攻撃を続けたと公然と批判しています。こうした厳しい発言にもかかわらず、トランプ氏はロシア産石油の購入国に対する二次制裁を実際に実施する前に、プーチン氏に50日間の猶予を与えることを選択しており、言葉と行動の間に微妙なずれが見られます。この猶予期間の設定は、彼の最近の強硬な発言の「本気度」について、さらなる疑問を投げかけています。

ゼレンスキー大統領との激しい口論:プーチン氏の交渉信頼性を巡る対立

トランプ政権がプーチン氏との交渉を信用する姿勢を見せていたことが原因で、2024年2月にはホワイトハウスの大統領執務室で、ゼレンスキー・ウクライナ大統領との間で激しい口論が勃発したこともありました。当時、J・D・バンス副大統領が米政権は力の誇示よりも「外交」を重視すると示唆した際、ゼレンスキー氏は口を挟み、プーチン氏が本当に誠実に交渉に応じると信頼できる相手なのか、疑問を呈したのです。

ゼレンスキー氏は、「我々は(2019年に)停戦に署名した。プーチン氏が(ウクライナに)侵攻することはまずないとあらゆる人から言われ、我々はガス契約を締結した。しかしその後、プーチン氏は停戦を破ってウクライナ国民を殺害し、捕虜交換にも応じなかった。我々は捕虜交換に署名したのだが、プーチン氏は実行しなかった」と具体的な例を挙げ、バンス氏に「J・D、あなたはどういった外交の話をしているのか?」と問い詰めました。これに対し、バンス氏がゼレンスキー氏がメディアの目の前でこの問題について争ったのは「無礼」だと指摘したことから、事態は急速に険悪化しました。

最終的に、トランプ氏はこの会談で、プーチン氏が停戦条件に違反したとしたらどうなるかという質問を受け、顔色を変えて反論しました。「だとしたらどうなるって? 今その頭に爆弾が落ちてきたらどうなる? ロシアが違反したらどうなるか? そんなことは分からない。ロシアはバイデンとの合意を破った。バイデンへの敬意がなかったからだ。オバマにも敬意はなかった。私には敬意を払っている」と語り、自身の「交渉力」と「特別な関係」を強調する姿勢を見せました。

それから4カ月半後の現在、トランプ氏はプーチン氏が電話で極めて口当たりの良い発言をするのに、行動が伴わないと批判するようになったのです。14日には、「家に帰って妻に『あのね、きょうはウラジーミル(プーチン氏)と話したよ。素晴らしい会話だった』と言うと、妻は答えたんだ。『そうなの? また別の街が攻撃されたところですよ』とね」と、過去にも見られた自らの「誤算」を認めるかのようなエピソードを披露しました。

過去にも見られたトランプ氏の「態度急変」の歴史

このようなトランプ氏の態度急変は、プーチン氏との関係において特異なことではありません。彼は過去にも、敵対関係にあり、政策が大きく異なる外国の政治指導者らを擁護し、それが時として裏目に出てきました。

2020年の初め、トランプ氏は新型コロナウイルスの感染拡大をめぐり、中国と習近平国家主席を繰り返し擁護していました。中国が感染拡大を隠しているとの説を否定し、もっと圧力をかけるべきだという声に反して、同国の透明性を称賛しました。しかし、まもなく米国内でも感染が広がると、トランプ氏は中国のせいだと非難する姿勢に転換し、ホワイトハウスは、トランプ氏が以前は疑問視していた中国の隠蔽を主張し始めたのです。

また、トランプ氏は特に、ロシアによる2016年大統領選への介入疑惑が浮上した際、自国の情報機関よりプーチン氏に味方する立場を取り続けていました。2018年にフィンランドのヘルシンキでプーチン大統領と共同会見した際には、ロシアが介入する「理由は見当たらない」とまで発言しました。「我が国の情報機関員には大きな信頼を寄せているが、プーチン大統領は今日、極めて強力に否定した」と述べて、自国情報機関の結論に疑問を投げかけました。トランプ氏はその後、これは言い間違いであり、ロシアが介入「しない」理由は見当たらないと言うつもりだったと釈明しましたが、上院の超党派調査で情報機関の調査結果が裏付けられたにもかかわらず、トランプ氏はロシアの介入説に繰り返し疑問を投げかけています。

暗黙の誤算と「外交」の代償

他の政治家であれば、こうした過去の経緯を省みて、自分は習氏やプーチン氏に信頼を置きすぎたのではないかと自問するかもしれません。しかし、トランプ氏の認識は異なり、「カモにされたのは自分以外の歴代大統領」という考えを維持しているようです。

とはいえ、よく見ればトランプ氏も暗黙のうちに自身の誤算を認めています。プーチン氏が口当たりの良いことを言いながら、その通りにしないことも何度か指摘してきた事実がそれを示唆しています。外交の場では、たとえ相手の話を信じなくても相手のことを良く言うのが普通ですが、その相手は敵対関係ではなく、友好関係にある場合がはるかに多いものです。

これはある意味、自分の信用性や正当性を、見返りがないかもしれない相手に差し出す行為です。プーチン氏の場合、結局そういう事態に陥るかもしれないと信じる理由はいくらでもあったはずです。その結果が、現在示されているトランプ氏の態度変化というわけです。トランプ氏のプーチン氏に対する言動の変化は、その場の状況や個人的な見方によって左右される傾向が強いことを示唆しており、国際政治における彼の発言の重みと信頼性について、常に注意深く検証する必要があると言えるでしょう。

参考資料

  • CNN
  • Yahoo!ニュース