フランスの美術館ポンピドゥー・センター・メスで展示されていた、壁にテープで留められた高額なバナナのインスタレーション作品が、来館者に食べられるという出来事が発生し、現代アートの価値と定義を巡る新たな論争を巻き起こしています。数億円相当とされるこの挑発的な作品「コメディアン」は、過去にも同様の事態を経験しており、その度に大きな話題となってきました。
フランスのポンピドゥー・センター・メスで、イタリアの現代美術家マウリツィオ・カテラン氏の作品「コメディアン」(壁にテープで貼られたバナナ)を鑑賞する来館者。
「コメディアン」とは何か?高額なバナナの芸術作品
この作品「コメディアン」は、イタリアの著名な現代美術作家マウリツィオ・カテラン氏によるもので、2019年に米マイアミビーチで開催されたアートフェア「アート・バーゼル」でデビューして以来、その特異性から常に注目を集めてきました。昨年、ニューヨークで行われた競売では、なんと620万ドル(現在のレートで約9億2000万円)で落札され、その価値が改めて世間の度肝を抜きました。しかし、その高額さとは裏腹に、作品の核となるのは、日常的な「バナナ」と「ダクトテープ」という極めてシンプルな要素です。
美術館での「消費」と作者のコメント
今月12日、フランス東部のポンピドゥー・センター・メスで展示されていた「コメディアン」のバナナが、来館者によってかじられるという事件が起きました。美術館側は、「警備員が迅速かつ冷静に介入し、作品は数分以内に再設置された」と説明しています。この作品はバナナが腐りやすい性質上、制作者の指示に基づき定期的に交換されており、その点が作品の一部として組み込まれています。今回の件について、カテラン氏本人は、食べられた人が「バナナと芸術作品を混同した」と指摘。さらに、皮と粘着テープまで食べずに、果肉しか食べなかったことに対して失望の念を表明しました。これは、作品全体としてのメッセージを理解していないことへの皮肉とも受け取れます。
アート市場への批判としての「コメディアン」
「コメディアン」は単なる奇抜な作品ではなく、カテラン氏自身が「投機的でアーティストの助けになっていない」と批判する現代アート市場を解説するものとして制作されました。2019年にこの作品が12万ドル(当時のレートで1780万円)で落札された際、米紙ニューヨーク・ポストは、アート市場が「狂乱状態」であり、アート界が「狂っている」証拠だと報じました。この作品が繰り返し「消費」される出来事は、アートの定義、価値、そして市場のあり方について、私たちに問いかけ続けていると言えるでしょう。
現代アートの価値を問うバナナ
マウリツィオ・カテラン氏の「コメディアン」が美術館で食べられたという今回の出来事は、その挑発的な性質を改めて浮き彫りにしました。この作品は、高額な価格、来館者による「消費」、そして作者のユーモラスながらも哲学的なコメントを通じて、現代アートとは何か、その価値はどこにあるのかという根本的な問いを私たちに投げかけます。単なるバナナとテープが高値で取引され、しかも物理的に消滅する可能性を内包しているという事実は、芸術の普遍性と、その時々の文脈の中で変化する解釈の多様性を象徴していると言えるでしょう。
参考資料
- AFPBB News (2025年7月19日). フランスの美術館でバナナの美術作品食べられる、数億円相当. Yahoo!ニュース.
https://news.yahoo.co.jp/articles/fb5f8b2bd84fc50b309fe72e794983d06323d175