ドローンが変える現代戦:ウクライナ最前線の「殺戮ゾーン」と非対称戦略

ウクライナ戦争の最前線では、かつてないほど大量の無人機(ドローン)が飛び交い、その様相は劇的に変化しています。負傷のため後送されたウクライナ軍の小隊長「イワン」氏は、この新たな戦争の現実を「どこもかしこもドローンだらけ。ドローンしか存在しない」と表現しました。安価でありながら強力なこれらのドローンは、自爆型から監視用、爆撃用、迎撃用まで多岐にわたり、ウクライナがロシア軍の進攻を食い止め、攻勢を挫くための主要な根拠となっています。このドローンがひしめく幅約10キロメートルの最前線地帯は、ウクライナ兵によって「殺戮(さつりく)ゾーン」と呼ばれ、両軍の遠隔操作無人機(UAV)が標的を迅速に発見し、無力化しています。

「殺戮ゾーン」:ドローンが変えた戦場の様相

ウクライナ軍の司令官や政府高官、国防関連の武器メーカーへの取材からは、ドローンの大量投入が、兵力や大砲、戦車の数におけるロシア軍の優位性を帳消しにしている現実が浮かび上がります。最前線で活動するウクライナ軍司令官らは、大型車両がドローンにとって格好の餌食となり、ロシア軍が2022年のように装甲車両を連ねて急速な前進を図ることが不可能になったと説明します。前線配置のドローン操縦者から集約された動画データを分析する「OCHI」創設者のオレクサンドル・ドミトリエフ氏は、「どこにいても、どんな車両を運転していても敵には丸見えだ」と述べ、戦場の透明性が飛躍的に高まったことを指摘しています。これに対し、ロシア軍は5~6人の少数兵士が徒歩やオートバイ、四輪バギーでウクライナ側の布陣を探り、その後ドローン攻撃を仕掛けるという新たな戦術を採用し、ドローン戦に対応しています。

ウクライナ中部ドニエプロペトロフスク州の前線付近でFPVドローンを準備するウクライナ兵。ドローンが支配する「殺戮ゾーン」の現実を示す。ウクライナ中部ドニエプロペトロフスク州の前線付近でFPVドローンを準備するウクライナ兵。ドローンが支配する「殺戮ゾーン」の現実を示す。

ドローンの脅威と戦術的進化

戦争の形が変わっても、ロシア軍の全体的な優位は依然として存在し、ウクライナ東部と北部では緩やかではあるものの着実に前進を続けています。軍事専門家の見立てでは、ロシアはUAV関連技術においてもウクライナに対する当初の遅れを取り戻し、年間国内生産量もウクライナ並みの数百万機に達しています。ポーランドの軍事アナリスト、コンラッド・ムジカ氏は、ウクライナが重点を置くのはロシアの攻撃力を削ることであり、攻勢に出る能力はないとの見方を示しています。兵力不足やロシアの物量に直面し、ウクライナは長期の消耗戦に苦しむ可能性があり、ムジカ氏はドローンが戦場に変化をもたらしたとはいえ、砲兵や迫撃砲がない状況を補うほどの力はないと警告しています。大砲の砲弾一発と同じ損害を与えるには数十機のドローンが必要であり、ドローンは一定の助けにはなっても大砲の代わりにはならないとムジカ氏は付け加えています。

しかし、全長1000キロメートルに及ぶ最前線の「殺戮ゾーン」で活動する兵士たちにとって、ドローンは悪魔のような存在です。高性能カメラを搭載したプラスチックや発泡スチロール製の小型偵察UAVは、数キロ先から敵を発見し、前線上空をホバリングしながらリアルタイムで情報を提供します。偵察UAVが見つけた標的には、3Dプリントされた尾翼で精密手榴弾を投下できるヘキサコプターや、装甲を貫通するRPG弾頭を取り付けた自爆型ドローンが、兵士や戦車、武器システムに飛来します。「イワン」小隊長は、両軍の兵士の命にとって今や砲弾や地雷、敵兵よりもUAVが最大の脅威だと語っています。小隊長を輸送した医療チームの一人も、戦地で最も多く治療しているのがUAVによる負傷であることを認めています。ロイターが確認したウクライナ軍の内部算定資料によると、2024年のロシア軍歩兵に対する攻撃の69%、車両・装備攻撃の75%がドローンによるものでした。

長距離UAV:ウクライナの「非対称」な切り札

戦争中にはドローンに関する多くの技術革新も生まれ、双方の軍が電子妨害を受けない短距離型の有線ドローンや、敵の偵察・攻撃用ドローンを撃墜する迎撃用ドローンを配備しています。今年6月初めまでウクライナのドローン部隊司令官を務めていたバディム・スハレフスキー氏は、今年中に3万機の長距離UAVを生産する計画があり、ウクライナの攻撃能力が高まると主張しています。これらのUAVはロシア国内の奥深くにある兵器庫やエネルギー施設を標的にできるからです。スハレフスキー氏は司令官時代のインタビューで、長距離UAV1機と射程距離が同じミサイル1発を比較すると、弾頭はUAVの方が小さいものの、UAVの生産費用は平均5万ドルから30万ドルと、ミサイルの10分の1程度で済むと説明しました。彼は「ミサイルが不足しているからこそ、こうしたドローンの開発に着手した」「これがわれわれの『非対称的』な答えだ」と語り、ドローンがウクライナの重要な戦略的手段であることを強調しました。ゼレンスキー大統領の戦略顧問を務めるオレクサンドル・カミシン氏は、「守り一辺倒では、大規模な戦争には勝てない」と述べ、長距離ドローン攻撃は「今、ウクライナがロシアに対抗しうる最重要カードの一つだ」と指摘しています。

ドローンは、ウクライナ戦争における戦術と戦略の根幹を揺るがし、現代の消耗戦の性質を根本的に変えました。兵士にとって最大の脅威となり、兵器の優位性を相対化するこの新たな戦場の主役は、ウクライナが兵力や物量の劣勢を覆し、ロシアに対する「非対称」な抵抗を続ける上での重要な要素であり続けています。


参考文献