日本の「外免切替」制度が厳格化へ:外国人運転免許証悪用と安全対策の背景

日本政府の外国人受け入れ拡大路線に、新たな一石が投じられました。警察庁は10日、海外の運転免許証を日本の運転免許証に切り替える、いわゆる「外免切替」制度の厳格化を盛り込んだ道路交通法施行規則の改正案を発表。国民からの意見を募るパブリックコメントを経て、本年10月1日からの施行を目指しています。これは、増加する外国人運転手による交通事故への対策と、長年指摘されてきた制度の抜け穴を是正する重要な動きです。

増加する外国人運転手による事故と「甘い審査」の実態

警察庁の統計によると、昨年、外免切替で日本の運転免許証を取得した外国人は約6万8000人に上り、過去最多を記録しました。これは10年前の約2.7倍という急増ぶりです。これに伴い、外国人運転手による交通事故も増加の一途を辿っており、昨年は7286件が発生し、過去10年間で614件増加しています。

こうした背景には、これまで「甘すぎる」と指摘されてきた外免切替の審査基準がありました。例えば、知識確認のための試験では、「車は右側通行か」といった非常に簡単な10問のうち7問に正解すれば合格できていました。この試験の通過率は昨年時点で93%と極めて高く、その不備が問題視されていました。しかし、今回の改正では、問題数を50問に大幅に増やし、9割以上の正答率が求められるようになります。さらに、技能確認の試験においても、踏切や横断歩道の通過といった、より実践的かつ安全に関わる課題が追加される予定です。

外国人運転免許証の切り替えに関する日本の運転免許証とハンドル外国人運転免許証の切り替えに関する日本の運転免許証とハンドル

「観光客でも取得可能」だった住所要件の変更と制度の悪用

今回の改正で最大のポイントとなるのは、申請時に住民票の写しの提出が義務付けられる点です。これまでは、ホテルや知人宅など一時的な滞在先も住所として認められていたため、事実上、観光目的で日本を訪れた外国人でも日本の運転免許証を取得することが可能でした。警察庁が実施した15の国と地域への調査結果によれば、観光客への外免切替を認めている国は日本以外にはなく、日本の制度が国際的に見ていかに特異であったかが浮き彫りになりました。

さらに、日本で取得したこの免許証を利用して国際運転免許証を発行すれば、ジュネーブ条約加盟国である約100カ国で運転が可能になるという「裏技」も指摘されており、制度の悪用が看過できない状況でした。これにより、本来の目的とは異なる形で日本の免許制度が悪用されるリスクが懸念されていました。

長年の懸案事項を阻んできた政治的背景:菅元首相の影響

警察関係者によると、外免切替制度の厳格化は長年の懸案事項でした。例えば、外国人観光客に人気だった「コスプレ姿で公道をレンタルカートで走らせるサービス」も、事故が多発したことを受けて昨年、警視庁が業者を摘発するなど、制度の不備に起因する問題は以前から表面化していました。しかし、業者を取り締まるだけでなく、制度そのものに問題があるという声は、安倍晋三政権の頃からくすぶり続けていたのです。

この制度見直しが長らく遅れてきた背景には、第二次安倍政権で官房長官を務め、その後首相となった菅義偉氏の存在があったとされています。菅氏は、外国人観光客や外国人労働者の受け入れ拡大を推進した中心人物でした。政権発足当初、警察庁や法務省は、外国人受け入れ拡大によって犯罪が増加する可能性を懸念し、拡大策に反対の姿勢を示していました。しかし、菅氏は「それを取り締まるのが仕事だろう」と幹部を一喝したとされ、こうした経緯から、菅氏への「忖度」によって改正案の具体化が先延ばしにされてきたという見方があります。十数年の時を経て、ようやく政策を転換できる土壌が整った形となりました。

参院選を見据えた与党の姿勢転換

自民党関係者は、今回の厳格化の動きに、現在の政治状況も影響していることを明かしています。参議院選挙が近づく中で、外国人の受け入れ問題は重要な争点の一つとして浮上しており、政府・与党としては外国人に対して厳しい姿勢を示すことが票に繋がるとの見方が強まっているのです。もはや、過去の「菅氏の意向」などを気にする余裕はないという切実な内情が垣間見えます。

この「10年越し」とも言える外免切替制度の改正は、日本の道路の安全性を高めるだけでなく、政府の外国人政策における転換点となる可能性があります。果たして、この改革は有権者の支持を集める結果に繋がるのでしょうか。


参考文献

  • 週刊文春 2025年7月24日号