増加する人里のクマ出没:遭遇時の対処法と危険な行動

2025年、日本の住宅街や商業地でクマの出没が相次いでいます。山のドングリなどの餌が不作となり、食料を求めて人里へ下りてくるケースが増加しているためです。かつては山奥での話とされてきたクマとの遭遇が、今や私たちの日常のすぐそばで発生する深刻な問題となっています。では、もし街中でクマと遭遇してしまった場合、どのように身を守れば良いのでしょうか。本記事では、長年の経験を持つベテラン猟師と、実際にクマに襲われた経験を持つ専門家の証言をもとに、クマとの遭遇時に取るべき行動と、絶対にしてはいけない危険な行動について解説します。

住宅街で起きたクマ襲撃事件:ベテラン猟師の対処法

10月18日午後4時過ぎ、群馬県みなかみ町高日向で犬の散歩をしていた76歳の女性がクマに襲われ、頭や肩、尻などに大怪我を負う痛ましい事故が発生しました。その現場の近くにいたのが、群馬県奥利根を中心に40年以上クマ撃ち猟師として活動するベテラン、高柳盛芳さん(通称モリさん)です。

モリさんは当時の状況をこう語ります。「急にクマが飛び出してきて、まず犬がやられた。その後飼い主にも飛びかかったから、俺がすぐ飛んでいって、歯を見せながら『ワァー!』って大声を出したんだよ」。モリさんの威嚇にクマは一瞬たじろぎ、そのまま逃げていったといいます。この事例が示すように、散歩中、ゴミ捨て場、スーパーの中、そして自宅の敷地など、「日常のそば」でのクマ襲撃が近年相次いでおり、誰もが遭遇する可能性があることを物語っています。

クマと遭遇した際の基本行動:「目をそらさない」が鍵

もし目の前にクマが現れたら、どのように行動すべきでしょうか。モリさんが真っ先に挙げるのは「すぐに動かない」「目をそらさない」の二点です。「クマと遭遇したら、もうその瞬間が勝負。絶対に目をそらさないことだ。目をそらしたら、向こうは『勝った』と思って襲ってくる。喧嘩(けんか)と同じなんだよ」とモリさんは力説します。

まずはクマの目をしっかり見据え、ゆっくりと、そして静かに後ずさりすることが重要です。また、傘をバサバサと開閉しながら頭の上で振り回すのも効果的だとされています。これは、自分をできるだけ大きく見せ、「容易に近づけない存在」と印象づけることで、クマの攻撃を防ぐ可能性を高める狙いがあります。

住宅街に出没したクマのイメージ写真住宅街に出没したクマのイメージ写真

やがて、少しずつ距離が取れてくると、クマの方が先に視線を逸らすことがあります。これはクマが自分の逃げ道を探しているサインであり、安全な方向を見つけたと判断すれば、クマの方から逃げていく可能性が高まります。

距離による対処法の違い:大声は逆効果になることも

前述の犬の散歩中の襲撃例のように、クマとの距離が10m以上離れている場合は、歯を見せて声を張り上げるとクマがひるむこともあります。しかし、これはある程度の距離がある場合の対処法です。もしおよそ10mよりも近い距離でクマと鉢合わせてしまった場合は、決して大声を出してはいけません。

モリさんは「至近距離で大声なんて出したらすぐ追っかけてくるよ」と断言します。至近距離で出会ってしまった場合、「人間にできることはほとんどない」というのが現状です。走って逃げたところで、ツキノワグマは時速40km、ヒグマは時速60kmで走るため、あっという間に追いつかれてしまうでしょう。クマが攻撃してくるのか、そしてどの程度の攻撃になるのかは、クマ撃ち猟師でさえ予測できません。モリさんは「遭遇時のクマの気分や状態次第だから、どうなるかはわからない。学者だってわからねぇと思うよ」と語り、その予測不能な危険性を指摘します。

予測不能なクマの行動:山菜採り男性の経験

岩手県岩泉町で山菜採りを生業とする佐藤誠志さんは、2024年に山中で親子連れのクマに襲われた経験を持っています。日々山に分け入り、常にクマの存在を意識していた佐藤さんでさえ、実際にクマと鉢合わせた瞬間は冷静ではいられなかったといいます。

この事例は、どれだけクマの生態に詳しい専門家であっても、実際の遭遇時には予期せぬ事態が起こり得ることを示しています。クマの行動は個体差やその時の状況、気分によって大きく異なり、一概に「こうすれば大丈夫」と言い切れるものではありません。

増加するクマとの遭遇に備える

人里でのクマの出没増加は、私たちの生活に新たな安全上の課題を突きつけています。クマとの遭遇は誰にでも起こり得るという認識を持ち、もしもの時のために適切な知識を備えておくことが不可欠です。冷静な対処法を学び、危険な行動を避けること。そして、地域社会全体でクマの出没情報を共有し、対策を講じていくことが、私たち自身の安全を守る上で最も重要となるでしょう。