2020年以降、日本の所得税制における「基礎控除」に所得制限が導入されたことは、多くの納税者の関心を集めています。税法専門家である木山泰嗣氏は、年収2500万円の層は必ずしも富裕層ではなく、住宅購入や子どもの教育のために奮闘する現役世代も多い中で、「最低限の生活費」にまで課税される現状に疑問を呈しています。本稿では、この基礎控除の改正とその影響について、専門家の視点から詳しく解説します。
基礎控除の変遷:標準額の引き上げと所得制限の導入
平成30年(2018年)の税制改正以前は、国民全員に一律38万円の「基礎控除」が認められていました。これは、所得にかかわらず全ての人に適用される明確な制度でした。しかし、令和2年(2020年)分から適用された改正により、この原則は変更され、「所得制限」が設けられることになったのです。
この改正では、基礎控除の「標準額」が38万円から48万円に引き上げられました。これは、事業所得者など、多様な働き方に対応するため、「給与所得控除額」の最低保障額を65万円から55万円に引き下げたことと連動しています。これにより、基礎控除と給与所得控除の合計額「103万円」という水準自体は維持されつつも、控除の内訳が変更されました。しかし、この「振替」と同時に導入されたのが、所得による控除額の制限だったのです。
合計所得金額2500万円超で基礎控除はゼロに
新たに創設された所得制限は、合計所得金額に応じて基礎控除額が段階的に減少し、最終的にはゼロになるというものです。令和2年(2020年)分から令和6年(2024年)分に適用された制度では、合計所得金額が2350万円を超えると基礎控除額が減額され始め、2500万円を超えると控除が全く適用されなくなります。
日本の税制改正と家計への影響を示す硬貨のイメージ
さらに、令和7年(2025年)改正では、基礎控除の標準額が48万円から58万円に引き上げられましたが、所得制限の仕組みは維持されています(図表参照)。ここでいう「合計所得金額」とは、総合課税の「総所得金額」に分離課税の「退職所得金額」や「山林所得金額」を加えた、年間の理論所得の合計を指します。税法専門家は、年収2500万円の層が必ずしも「富裕層」ではなく、子育てや住宅ローンを抱える現役世代が多い現状を鑑み、「最低生活費」とされる部分にまで課税されることの不合理性を指摘しています。個人の状況により変動するこの所得額が一定水準を超えると、国民全員に認められるべき控除が消失してしまう点に、税制の課題が浮き彫りになっています。
日本の税制が直面するこの問題は、働き方の多様化や社会情勢の変化に応じた公平な税負担のあり方を改めて問いかけるものと言えるでしょう。
参考文献:
- 木山泰嗣『ゼロからわかる日本の所得税制』光文社新書
- Yahoo!ニュース: 「年収2500万円は富裕層ではない」最低生活費まで課税する日本の税制はおかしい…専門家が指摘する「基礎控除」の不可解な「所得制限」