マンション資産価値の原点回帰か?晴海フラッグが問う東京不動産市場の健全性

東京のマンション市場において、資産価値は「立地」がほぼ全てを決めると言っても過言ではありません。具体的には、最寄り駅からの距離、その駅の主要度、そして利用できる路線の種類が重要視されます。山手線や東海道本線のような主要路線は価値が高く、地下鉄でも銀座線や丸ノ内線のような古くから開通している路線沿いは資産価値が堅調です。一方で、南北線や大江戸線のような比較的新しい路線沿いの評価は低くなる傾向があります。長年にわたり東京のマンション市場を観察してきた筆者の経験から見ると、この市場は時折、基本的な原理原則から逸脱した「狂気」とも言える価格形成を見せることがあります。

マンション資産価値を決定する「立地」の絶対的原則

マンションの資産価値を測る上で、立地は不動の要素です。都心へのアクセス時間、駅周辺の利便性、そしてその路線のブランド力は、物件の流動性や将来の価値に直結します。例えば、都心へのアクセスが抜群で、複数の主要路線が乗り入れる駅に近接する物件は、常に高い需要を保ちます。逆に、駅まで徒歩20分を超えるような物件は、日々の生活に負担がかかり、資産価値の評価が厳しくなるのが一般的です。これは、新築マンション、中古マンション問わず、不動産市場における普遍的な原則と言えます。

東京を襲った過去の「バブル」とその教訓

私が40年以上にわたり東京のマンション市場を観察してきた中で、この「立地原則」が大きく歪められた時代が幾度かありました。1980年代後半の「平成大バブル」、2000年代後半の「ファンドバブル」、そして2015年頃から現在に至る「局地バブル」がそれです。これらの時期には、合理的な評価基準からかけ離れた高値で取引が行われ、「いつかバブルが崩壊するのではないか」という懸念が常に付きまといました。幸いにも、現在の局地バブルはまだ崩壊していませんが、その持続性には疑問符がつき始めています。不動産市場予測は常に不確実性を伴いますが、過去の教訓から学ぶべき点は少なくありません。

「晴海フラッグ」は「局地バブル」終焉の引き金となるか

もし現在のバブルが崩壊するとすれば、その引き金となるのは、これまでの原理原則から最も逸脱した価格が形成された物件である可能性が高いと見ています。その筆頭として挙げられるのが、東京オリンピック選手村跡地に開発された大規模マンション群「晴海フラッグ」です。

晴海フラッグの全景と、予想を下回る入居率(5割未満)を示す様子。東京オリンピック選手村跡地に開発された大規模マンション群。晴海フラッグの全景と、予想を下回る入居率(5割未満)を示す様子。東京オリンピック選手村跡地に開発された大規模マンション群。

晴海フラッグの最寄り駅は都営大江戸線の勝どき駅ですが、そこから徒歩でおよそ20分程度離れています。これは毎日の通勤・通学で利用するには現実的な距離とは言えません。にもかかわらず、分譲4145戸、賃貸1487戸、合計5632戸もの巨大なマンション群が完成し、全体竣工から1年以上が経過しています。当初想定された居住人口12000人に対し、現在の入居率は5割未満という予想もあり、これらのマンションをいったい誰が購入し、どれほどの人が実際に住んでいるのか、その実態は謎に包まれています。この大規模物件の動向は、今後の東京のマンション市場、特に「局地バブル」の健全性を見極める上で重要な指標となるでしょう。

東京の不動産市場は、常に国内外の経済状況や政策、住宅ローン金利といった多岐にわたる要因に影響されます。晴海フラッグのような大規模開発が市場に与える影響は大きく、今後の市場動向を注意深く見守る必要があります。

参考文献