職場における問題社員の存在は、組織の健全な運営にとって避けられない課題です。しかし、誰もが「ダメな社員」と認識できるような、成果が出ない、協調性がない、あるいは期待に応えられないといった社員は、比較的容易に特定し、対応することができます。彼らはその問題が明白であるため、迅速な対処が可能であり、組織は次の段階へと進むことができます。
本当に厄介な問題を引き起こすのは、一見すると仕事がソツなくこなし、有能そうに見える社員たちです。彼らは、まるでゆっくりと広がる「悪性のウイルス」のように、他の社員のパフォーマンス、態度、そして士気を少しずつ蝕み、最終的には会社全体の生産性と文化を破壊してしまいます。こうした「有能な厄介者」は、その巧妙さゆえに見過ごされがちですが、その影響は甚大です。
本記事では、あなたの組織を静かに内部から崩壊させる可能性がある、見過ごされがちな8つのサインを詳細に解説します。これらのサインを早期に認識し、適切に対処することは、健全な職場環境を維持し、チームと会社の持続的な成長を確保するために不可欠です。
組織を静かに破壊する「有能な厄介者」が放つ8つのサイン
1. ゴシップが何よりの好物
職場でゴシップが常態化している場合、それは単なるおしゃべりとして片付けられない、深刻な文化の歪みを示しています。特に誰かがいない場所でその人の噂話をする行為は、チーム内の信頼を大きく損ない、互いへの敬意を徐々に削いでいきます。
例えば、ある社員が同僚のジョンさんについて複数の人に否定的な情報を共有しているとします。もし本当に問題があるのなら、ジョンさんに直接話すべきです。それをしないにもかかわらず、陰で話すのは、建設的な行動ではありません。ゴシップを広める社員は、「自分には他人のことについて話すよりも価値のある仕事がない」と公言しているようなもので、生産的な会話に使える時間を無駄にするだけでなく、職場の雰囲気を悪化させます。社員の尊厳や敬意を損なう行為は、絶対に許容されるべきではありません。
2. 会議の「後」に本領を発揮する
会議では、課題が提起され、懸念が共有され、そして意思決定がなされます。出席者全員がその決定を支持し、物事が動き出すのが理想的です。しかし、会議が終わった直後に、いわゆる「会議の後の会議」を開く人物が存在します。
彼らは会議中には発言しなかった問題点を今さら持ち出し、決定に異議を唱え始めます。時にはチームに向かって「これは最悪のアイデアだと思うが、やれと言われたから仕方なくやる」とさえ言い放つことがあります。このような態度では、会議で決定されたはずのことは決して実現しません。会議中に沈黙し、後になってから反対意見を述べるのは、「口先では何にでも同意するが、実行するとは限らない。むしろ、裏で妨害することもある」と宣言しているに等しいのです。このような行動は、チーム全体の決定力を著しく弱め、プロジェクトの遅延や失敗を招く原因となります。
3. 決め台詞は「それは私の仕事じゃありません」
企業規模が小さければ小さいほど、社員一人ひとりが臨機応変に考え、変化の速い優先順位に素早く適応し、役職や立場に関わらず、やるべきことをやり遂げる姿勢が極めて重要になります。例えば、マネージャーが荷積みを手伝うこと、機械工がこぼれた液体を掃除すること、経理担当が緊急の注文を手伝うこと、あるいはCEOが製品トラブルの際に顧客対応の電話に出ることなど、組織全体が協力して動く必要があります。
依頼された仕事が非倫理的、不道徳、または違法でない限り、たとえそれが自分の現在の役職よりも「下の仕事」に見えても、自ら進んで引き受けるべきです。本当に優れた社員は、問題に気づけば言われる前に自ら行動します。「それは私の仕事ではありません」という言葉は、「私は自分のことしか考えていません」という自己中心的な態度を示し、まとまりのあるチームを機能不全な個人集団へと変えてしまい、組織全体のパフォーマンスを深刻に破壊します。
4. 「昔の栄光」にいつまでもしがみつく
過去に素晴らしい功績をあげた社員がいたとします。その貢献は確かに称賛されるべきものです。しかし、今日という日は新しい一日であり、「貢献した」という事実は過去のものです。貢献とは「し続ける」ものであり、社員の真の価値は、日々、目に見える形でどれだけ組織に貢献しているかで測られます。
「私はもう十分に貢献してきた(duesを払ってきた)」と公言する社員は、「もう昔ほど必死に働く必要はない」と考えているのと同義です。このような態度はあっという間に他の社員に伝染し、「自分たちもこれくらいでいいか」という、努力を怠る風潮を生み出してしまいます。結果として、組織全体の士気と生産性は徐々に低下し、成長の機会を逃すことになります。
5. 「経験」を振りかざし、成長を止める
経験が重要であることは間違いありません。しかし、その経験がより良いスキル、優れたパフォーマンス、そして大きな成果に結びつかないのであれば、それは単なる「年月の積み重ね」に過ぎず、組織にとって無価値なものとなります。ただ「ある」だけの経験は、往々にして無駄な足かせとなります。
例えば、かつてある同僚が、年下の管理職たちに「私の役割は、君たちの相談役(リソース)になることだ」と言いながら、一日中オフィスに座って、誰も訪れない彼の知恵を待っていました。皆は心の中で「あなたの経験は尊敬しますが、あなたの役割は、まずご自身の仕事をすることでは?」と感じていたでしょう。
何年働いたかという勤続年数よりも、どれだけ多くのことを成し遂げてきたかの方が、はるかに重要です。「私の方が経験豊富だ」と言うのは、「私の決定や行動に、いちいち理由を説明する必要はない」と言っているに等しいのです。議論において勝つべきは、経験や役職ではなく、最終的に知恵、論理、そして優れた判断力であり、それらが誰の中に宿っているかは関係ありません。
会社を蝕む有能な厄介者のサイン
6. 出る杭を打って、チームの足を引っ張る
新入社員が非常に意欲的に働き、長時間労働もいとわず、目標を達成し、期待を上回る成果を出しているとします。まさにエース級の活躍です。すると、やがて彼女は、より「経験豊富な」同僚から「君は働きすぎだよ。僕たちがサボっているように見えるじゃないか」と囁かれることがあります。
素晴らしい社員は、他人と自分を比較しません。彼らが比較するのは「昨日の自分」です。昨日よりも成長し、より良い結果を出すことで、その比較に「勝ちたい」と常に向上心を持っています。
一方、問題のある社員は、自分がもっと頑張ろうとはしません。彼らが望むのは、他人に頑張るのをやめさせること。彼らは勝ちたいのではなく、ただ自分が「負けない」ようにしたいだけなのです。「働きすぎだよ」と言うのは、「誰も一生懸命働くべきではない。なぜなら『私』が働きたくないからだ」と宣言しているようなもの。そして、あっという間に誰も一生懸命働かなくなり、頑張り続けようとする少数の人々は、会社にとって最も必要な資質を持っているにもかかわらず、チームから孤立させられてしまうのです。これは、組織の活力を奪い、優秀な人材の離職につながる危険な兆候です。
7. 手柄は誰よりも早く独り占め
プロジェクトが成功した際、まるで自分一人で全てを成し遂げたかのように振る舞い、手柄を独り占めしようとする社員がいます。確かに彼が仕事の大部分を担い、多くの障害を乗り越えたのかもしれません。彼がいなければ、そのハイパフォーマンスチームは成果を出せなかったのかもしれません。しかし、現実として重要なことは、決して一人では成し遂げられないということです。たとえ一部の人々が、あたかも自分一人の力でやったかのように振る舞うのが好きだとしても、大きな成果は常にチームの協力によって生まれます。
真に優れた社員であり、優れたチームプレイヤーは、栄光を分かち合います。彼らは他のメンバーの貢献を認め、心から称賛し、感謝の意を示します。そして、他のメンバーにスポットライトが当たるように計らうのです。これは特にリーダーの立場にある社員にとって極めて重要です。部下の成功を心から祝うことは、その成功が自分自身の評価にも繋がるという、自信の表れでもあるのです。
「これは全部私がやった仕事だ」とか「全部私のアイデアだ」と公言するのは、「世界は私を中心に回っている。そして、皆にそれを知ってもらう必要がある」と言っているのと同じです。このような態度は、たとえ他の人々が同じ考え方をしていないとしても、正当に評価されるべき自分たちの手柄のために戦わなければならない状況に、憤りを感じるようになります。結果として、チーム内の協力関係は崩壊し、互いに不信感を抱くようになります。
8. 責任は誰よりも早く押し付ける
取引先からクレームが入った、顧客が不満を感じている、同僚が腹を立てている。何が起ころうと、それは常に誰か他の人のせいにされる状況があります。問題の責任が実際に誰にあるかに関わらず、自ら進んで非難の矢面に立つ人々がいます。彼らは、自分がその批判や罵倒に耐えられること(そして、本当に責任がある当事者は耐えられないかもしれないこと)を知っているため、進んでその役を引き受けます。
不当な非難を自ら引き受けることほど、無私無欲で人間関係を強固にする行為はほとんどありません。逆に、「私じゃありません」と言うことほど自己中心的な行為もありません。特に、少なくとも部分的には自分にも非がある場合には、その態度はチームワークを決定的に損ないます。
「それはジョンさんに聞いてください」と言うのは、「私たちは一枚岩のチームではありません」と公言しているのと同じです。最高の会社では、誰もが「一枚岩」の精神で困難に立ち向かいます。そのような連帯感を持てない社員は、組織の結束を乱し、最終的には去るべきなのです。責任転嫁は、チーム全体の士気を下げ、問題解決を阻害する最大の要因となります。
結論:組織の活力を守るリーダーの責務
ここで挙げた8つのサインは、一つひとつは些細なことだと見過ごされてしまうかもしれません。しかし、こうした「静かに蔓延するウイルス」のような行動が組織内で放置されることで、本当に価値のある優秀な社員の意欲は徐々に削がれ、組織全体の文化が少しずつ、しかし確実に蝕まれていきます。
このような「有能な厄介者」が組織にもたらす影響は、目に見える形での損失だけでなく、チームワークの崩壊、士気の低下、そして最終的には企業全体の成長停滞に直結します。リーダーであるあなたの最も重要な役割の一つは、この状況を誰よりも早く見抜き、断固として対処することです。それこそが、健全で生産性の高いチームを守り、会社を確かな成長へと導くための、不可欠な一歩となるのです。問題社員の存在を放置せず、適切な介入を行うことで、組織はより強く、より弾力的なものになるでしょう。
参考文献
Originally published by Inc. Copyright © 2025 Mansueto Ventures LLC.
2016.09.06公開記事を再編集して再掲。