NHKドラマ『ひとりでしにたい』は、現代社会における「終活」をテーマにした注目作です。39歳の独身女性・鳴海(綾瀬はるか)が叔母の孤独死をきっかけに自身の生き方を見つめ直す物語は、多くの独身女性、特に30代から40代の視聴者の心に深く響いています。本記事では、このドラマが描く現代の結婚観と、それに伴う個人の不安や社会との葛藤に焦点を当て、その共感性を探ります。
現代社会における30代女性の結婚観の変遷と葛藤
近年、「結婚しない生き方」が社会的に広く受け入れられるようになりつつありますが、鳴海と同世代の30代女性たちは、依然として「結婚はすべき」という伝統的価値観と「結婚しなくてもよい」という新たな価値観の狭間で揺れ動いています。未婚であることに対する風当たりは弱まったものの、「アラフォー」以上の未婚女性は、いまだ社会の中で少数派とされる傾向にあります。
親世代の価値観と「孤独死」への偏見
ドラマでは、親世代の根強い価値観が、鳴海の父・和夫(國村隼)を通して鮮明に描かれています。和夫は、独身であった自身の姉・光子(山口紗弥加)の孤独死に対し、「結婚もせず、子供も産まないで、一人でず~っと好き勝手してきたから、最後に罰が当たったってことか」と平然と言い放ちます。しかし、光子は決して「好き勝手」に生きていたわけではありません。彼女は大企業で定年まで勤め上げ、男性中心の会議で海外勤務を目指す女性のための就職雑誌を提案するなど、女性の社会進出に道を切り拓こうとしたキャリア女性でした。和夫自身も会社員としての苦労を知っているはずですが、姉の努力や苦労を理解しようとしない、世代間の価値観の大きな隔たりが浮き彫りになります。
NHKドラマ『ひとりでしにたい』第4話に登場する主人公・鳴海(綾瀬はるか)の姿。彼女が自身の終活や独身生活を見つめ直す場面を象徴しています。
独身者の内面が抱える複雑な感情:鳴海の台詞が示す真実
独身女性に対する周囲の無理解や偏見は、本人を深く傷つけます。彼女たちが抱える複雑な胸の内は、第1話のラストにおける鳴海の台詞に集約されています。「ひとりで生きることってそんなに悪いこと?[中略]私、迷惑かけてないつもりだよ。仕事だってちゃんとしてるし貯金だってしてるし、税金だって年金だってちゃんと払ってる。[中略]なんか、ひとりで生きるの情けなくなっちゃった」。この台詞は、光子だけでなく、多くの独身者が社会的な責任を果たしているにも関わらず、時に批判的な眼差しを向けられ、自身の選択に自信を持てず、どこか後ろめたさを感じてしまう現状を如実に表しています。鳴海の同僚である20代の優弥(佐野勇斗)は、「結婚すれば安心」という価値観を「昭和の発想」と一蹴しますが、彼のように自らの生き方に確固たる考えを持てれば、もう少し気楽に人生を歩めるかもしれません。しかし、30代、40代の女性が優弥のような境地に達するのは、社会の期待や自身の内面的な葛藤から見て、容易ではないのが現実です。
まとめ
ドラマ『ひとりでしにたい』は、終活というテーマを通して、現代独身女性が直面する社会的な圧力、親世代との価値観のずれ、そして自身の生き方に対する深い不安と内省を鮮やかに描き出しています。鳴海の台詞が多くの共感を呼ぶように、この作品は単なるドラマに留まらず、多くの人々が抱える潜在的な悩みを浮き彫りにし、それぞれの生き方を見つめ直すきっかけを提供するとともに、独身でいることの「情けなさ」という感情を和らげる一助となることが期待されます。