高市首相の服装ツイートが物議、ロックミュージシャンが激怒し日中関係に波紋

11月22日、高市早苗首相のX(旧Twitter)投稿に対し、ロックバンド「GEZAN」のボーカルであるマヒトゥ・ザ・ピーポー氏が批判的なコメントを投稿し、インターネット上で大きな「炎上」を引き起こしました。この一連の騒動は、首相の個人的な発言が政治的、社会的な波紋を広げ、さらに日中関係における文化交流のデリケートな側面にまで言及される事態となっています。この出来事は、SNS時代における政治家の発言の重みと、それに対する市民、特にアーティストの反応が、いかに急速に拡散し議論を呼ぶかを示しています。

論争の火種となった高市首相のG20服装ツイート

事の発端は、11月21日に高市首相が南アフリカで開催されるG20ヨハネスブルグ・サミットへ向かう道中でXに投稿した内容でした。首相は、「昨日は、午前中の日程を空けてもらって出張用荷物のパッキングをしましたが、悩みに悩んで凄く時間がかかったのが、洋服選び…」と切り出しました。彼女は、11月14日の参議院予算委員会で参政党の安藤裕参議院議員から受けた指摘が気になっていたと明かしています。

安藤議員は、「高市総理はじめ各閣僚の皆さんも、世界各国のトップと交渉しなくてはなりません。そのときに、できれば日本最高の生地を使って、日本最高の職人さんが作った服でしっかりと外交交渉してもらいたいんですよ。安物の服で対応していたらなめられます」と発言していました。これに対し高市首相は、「私は日本最高の生地を使った服や日本最高の職人さんが作った服は持っていませんが、安藤議員の御指摘は一理ある気がして、クリーニングから戻ってきた服の中から、『安物に見えない服』『なめられない服』を選ぶことに数時間を費やしました」と説明。最終的に手持ちの服で荷造りを終えたものの、「外交交渉でマウント取れる服、無理をしてでも買わなくてはいかんかもなぁ」と投稿し、服装に関する悩みを率直に綴っていました。

国際的な活動を展開するGEZANボーカル、マヒトゥ・ザ・ピーポー氏の「激怒」

高市首相の投稿に対し、冒頭で述べたように「GEZAN」のボーカルであるマヒトゥ・ザ・ピーポー氏が自身のXで批判的なポストをしました。GEZANは大阪で結成され、今年で16年目を迎える4人組ロックバンドです。2023年にはフジロックフェスティバルに出演し、2024年には初の中国5都市ツアーや台湾での公演、さらにはウガンダの音楽フェスに出演するなど、国際的に活躍しています。その独特なパフォーマンスと音楽スタイルは熱狂的な支持を集め、2026年3月14日には初の武道館ワンマンライブも決定しています。

マヒトゥ氏は高市首相の投稿を引用し、「《マジでシンプルになんでこんなバカが国のトップなの?センス磨いてやるからGEZANの武道館こいよ。前売りかいとくから》」と、かなり踏み込んだ表現で批判を展開しました。

G20サミットへ向かう高市早苗首相、服装に関する発言が物議を醸すG20サミットへ向かう高市早苗首相、服装に関する発言が物議を醸す

SNSでの賛否両論とマヒトゥ氏の真意

マヒトゥ・ザ・ピーポー氏のこの投稿は174万回以上のインプレッションを記録し、X上で大きな注目を集めました。コメント欄は閉鎖されたものの、この発言に対する賛否両論が巻き起こり、多くの批判的な声も寄せられました。「まだ誰それ芸能人が、売名行為で高市首相侮辱発言かよ」や「まず誰やねん。ただ中国に寄生して飯食ってたバンドが中国で食えなくなったから声上げてるだけだろ」といった厳しい意見も少なくありませんでした。

これに対し、マヒトゥ氏は自身の投稿の10分後に再びXを更新し、自身の発言の意図を説明しました。彼は「この期に及んで音楽に政治を持ち込むなみたいなレベルで話してくる人って心があるの?」と問いかけ、続けて「中国には大好きな人たちがいる。積み上げてきた時間もある。次は日本に来てくれと言った上海でライブで武道館のチケットも90枚売れた。みんなこの歪んだ日本にくる。そういう繋がりを断ち切りかねない高市総理の危険な感覚に警戒しない方がおかしくない?」と述べました。さらに、「君の上司が危うかったら疑うだろ?わたしにとっては切実な音楽活動の範疇なんだ。わたしの友達を汚すな。そして誰一人として感性の旅を邪魔されたくない」と、台湾有事を巡る高市首相の発言以降、緊張が続く日中関係が自身の音楽活動に与える影響への切実な懸念を表明しました。

芸能ジャーナリストが見る外交と市民交流の狭間

この一連の騒動に対し、芸能ジャーナリストは、音楽活動に影響が出ているミュージシャンが、中国を「刺激した」と見なされる高市首相に対し不満を抱くのは理解できると指摘しています。「実際、経済的な損失も含めて音楽活動を制限されたミュージシャンからすればたまったものではないでしょう。」と述べる一方で、「ただ、実際に活動を制限しているのは中国政府であって、外交上のカードを次々切っているのも彼らです。そうした背景も含めると、なかなか高市さんだけが悪いとは言えないでしょう。」と、問題の複雑性を強調しています。政府間の外交とは別に、市民同士が交流を続けたいという願いは共通しており、マヒトゥ・ザ・ピーポー氏も別の表現を用いることで、より幅広い理解を得られた可能性もあると示唆しました。

今回の高市首相のX投稿と、それに対するミュージシャンの反応、そしてそれに続くオンラインでの激しい議論は、政治トップの発言が、直接的であれ間接的であれ、一般市民、特に国境を越えて活動する人々の生活や文化交流に多大な影響を与える可能性があることを浮き彫りにしました。国際情勢が緊張する中で、政府外交と市民レベルの交流との間の摩擦は避けられない問題であり、その狭間で多くの人々が翻弄されている現状がうかがえます。