参政党の躍進:中高年男性の支持獲得の背景と経済・社会的な要因分析

2025年7月22日、参院選において「日本人ファースト」を掲げるナショナリズム的主張と税負担軽減策を打ち出した参政党が、若年層のみならず中高年男性から高い支持を得て、勢力を大きく伸ばしました。専門家は、既存政治への不満と排外的主張への共感が、賃上げの恩恵を受けにくい中高年の間で広がったと分析しています。

データが示す参政党の支持層

朝日新聞が20日に実施した出口調査によると、参政党に比例代表で投票した有権者のうち、男性が60%を占め、年代別では40代と50代がそれぞれ21%と、20代(15%)や30代(17%)と比較して高い割合を示しました。NHK、読売新聞、日本テレビ・NNNが合同で実施した出口調査でも、比例の投票先を年代別に見ると、40代では参政党が18.7%でトップ、50代でも15.3%と、自民党に次いで2位という結果でした。

「世代間格差」が不満の温床に

日本総合研究所の西岡慎一主席研究員は、「現在の中高年は世代間の不公平さをかなり強く感じており、新興政党が彼らの不満の受け皿となった」と指摘します。近年、日本企業では賃上げの動きが広がるものの、年功序列の見直しが進んだ結果、その恩恵は若手社員に偏りがちです。再雇用の対象となるシニア世代では待遇改善が見られる一方で、中高年層は経済回復の実感を得られていない状況です。

日本銀行が進める金利正常化の動きも、変動型住宅ローンを利用する中高年世帯にとっては逆風となります。金利上昇は家計の負担を増大させるためです。中高年層は十分な貯蓄を積み上げられていない反面、負債は大きく膨らんでおり、「高齢者層と異なり、利子収入が利払いに相殺され、消費の押し上げには至らない」(西岡氏)とされます。さらに、晩婚化や長寿化の影響で、子育てと親の介護が同時期に重なる「ダブルケア」のタイミングが後ろ倒しになっていることも、将来への不安を一層高めています。

総務省の家計調査によれば、中高年世帯の実質消費は減少傾向が続き、1990年の水準を2割以上下回っています。特に40代から50代の世帯におけるこづかい・交際費は、1990年から2023年の間に月額で4万円も減少しています。

「就職氷河期世代」が抱える深刻な問題

中でも深刻なのが「就職氷河期世代」です。新卒時に希望する職に就けず、非正規雇用の期間が長期化し、正社員になる時期が遅れたことで、現在も平均年収は低い水準にとどまっています。

スイス系資産運用会社ピクテ・ジャパンの市川眞一シニア・フェローは、国の未来に閉塞感を感じる若年層に加え、「足元の物価高もあって、生活の質が向上しないことにいら立ちを募らせる氷河期世代が参政党の支持基盤になっている。欧米でも所得格差が開くと、ポピュリズム政治が台頭して移民が標的にされた」と分析しています。

参院選で支持を拡大した参政党の神谷宗幣代表が街頭演説を行う様子。中高年層からの支持を集める同党の姿を象徴している。参院選で支持を拡大した参政党の神谷宗幣代表が街頭演説を行う様子。中高年層からの支持を集める同党の姿を象徴している。

高まる「被害者感情」と排外的主張の共鳴

長年生活苦を強いられる中で、「割を食っている」と感じる中高年が増えるのは自然な流れと言えます。参政党はこうした被害者感情に呼応する形で、外国人が税金や社会保険料を支払わずに制度にタダ乗りし、日本人の富を奪っているとする主張を展開しました。外国人の受け入れや土地購入への規制強化を公約に盛り込み、SNSなどを通じて話題を集めました。

世代間に広がる不公平感を放置すれば、排外主義的な思想への支持が一層拡大する恐れもあります。第一生命経済研究所の永原僚子氏は、「就職氷河期世代は、高齢期においても経済的困難に直面する可能性が極めて高い」と警鐘を鳴らします。同世代が65歳を迎える2040年頃には、厚生年金の加入期間が短いことなどから、公的年金の支給額が少ない人が大量に出ることが見込まれています。

永原氏は「社会存続の危機となるため、就労支援策に加え、彼らにターゲットを絞った社会保障の見直し・拡充が不可欠だろう」と述べ、国の政策対応の必要性を強調しました。

参考文献

  • ロイター通信 (2025年7月22日). 「参政党、中高年男性の支持獲得で躍進 経済的苦境と排外主義が共鳴」.
  • 朝日新聞 (2025年7月20日). 「参院選出口調査分析」.
  • NHK, 読売新聞, 日本テレビ・NNN (合同). 「参院選比例代表出口調査データ」.
  • 総務省. 「家計調査報告 (2023年)」.
  • 日本総合研究所. (西岡慎一主席研究員). 専門家コメント.
  • ピクテ・ジャパン. (市川眞一シニア・フェロー). 専門家コメント.
  • 第一生命経済研究所. (永原僚子氏). 専門家コメント.