近年、自宅で過ごす時間が増え、片付けや整理整頓への関心が高まっています。メディアやSNSでは、まるでモデルルームのような「美しい収納」が数多く紹介され、多くの人がこれを理想と捉え、自身の片付けの目標としています。しかし、実はこの「美しい収納」を目指すことが、片付けが苦手な人にとっては逆効果となり、かえってストレスを増大させる可能性があるという、驚きの指摘があります。
本記事では、片付けの心理カウンセラーが解説する視点に基づき、なぜ「完璧な見た目の収納」が使いにくさを生み、片付けを阻害するのかを深掘りします。そして、本当に効果的な「使いやすい収納」とは何か、ストレスなく片付けを継続するための具体的な考え方を探ります。
片付けへの意欲が裏目に出る?「収納グッズ」の罠
「部屋をきれいにしたい」という気持ちが芽生えたとき、多くの人がまず手をつけるのが「収納グッズ探し」ではないでしょうか。インターネットで情報を調べたり、関連書籍を読み漁ったり、中には収納の資格取得を目指す人もいるほどです。実際、片付けの専門家のもとを訪れる人の多くが、これまで様々な収納用品を購入し、多くの収納術を試してきた経験を持っています。
しかし、残念ながら、世の中に溢れる「完璧な収納」のイメージや、素敵な収納グッズが、片付けが苦手な人々にとっては期待通りの効果をもたらさないどころか、逆効果になってしまうことが少なくありません。まるで魔法のように片付くはずが、むしろ物が増えたり、片付けがリバウンドしたりする原因となるのです。
見た目重視の「美しい収納」が、なぜ使いにくいのか
インターネットで「収納」と検索すると、白い箱が隙間なく整然と並べられた、絵に描いたような「完璧収納」の写真が目に飛び込んできます。スッキリと無駄なくスペースが活用されたその光景は、まさに理想の形に見えるかもしれません。しかし、この「美しい収納」をゴールだと勘違いしてしまうことが、片付けがうまくいかない大きな落とし穴なのです。なぜなら、「美しい収納」は必ずしも「使いやすい収納」ではないからです。見た目を最優先した結果、日常生活における様々な「動作負担」が生じ、結果的に片付けが苦手な人には使いこなせない収納になってしまうのです。
「ぴったりサイズ」の箱が生むストレス
例えば、棚の高さや幅にぴったりと合う収納ボックスを揃えることは、見た目の統一感を生み、達成感すら感じさせるかもしれません。同じ種類の箱が無駄なく並んでいる姿はまさに圧巻です。しかし、ここにこそ落とし穴があります。
整然と並べられた収納ボックスのイメージ。完璧な収納が必ずしも使いやすいとは限らない現状を示す。
棚の高さにぴったりの箱を並べてしまうと、何かを取り出す際や収納する際に「引き出す」という動作が必ず発生します。もし、棚の高さに対して中途半端なスペースがあったなら、物を「ぽいっと放り込む」という簡単な動作で済む場合もあるでしょう。この動作の違いは、片付けを継続する上では実は非常に大きな違いとなるのです。また、中身が見えない同じ箱が並んでいると、どこに何をしまったのかが分かりにくくなり、探す手間や「どこに収納すべきか」という迷いも生じやすくなります。
物ごとに異なる「収納の最適解」を無視する弊害
さらに、物の種類や使用頻度によって、最適な収納方法は異なります。最初に見た目の美しい箱を揃えてしまうと、ある物には使いやすくても、別の物にとっては非常に使いにくい収納になってしまうことがあります。このように、見た目を最優先した結果、使い勝手は二の次となり、結果として美しいけれど使いにくい収納が完成してしまうのは、ある意味当然のことなのです。
「完璧主義」が脳に与える「片付け拒否」のメカニズム
書類整理に悩む人から、「ちゃんとファイリングしなきゃと思っているのに、つい溜まってしまって」という声をよく聞きます。確かに、書類をポケットファイルなどに細かく分けて収納することは、整理整頓の模範のように見えます。しかし、この行為は私たちの脳にとってかなりの「負担」となります。
「動作」「迷い」「決断」といった一連の思考プロセスが、私たちの高機能な脳に「しんどい!やりたくない!」と拒否反応を起こさせるのです。結果として、せっかくきれいで高価な収納用品やファイルを購入したにもかかわらず、最初のうちは使えても、すぐに中身は空っぽのまま放置され、結局、部屋には書類が散乱した状態に戻ってしまうという事態を招きます。
きれいで完璧な収納や、物をきっちり、きちんと分類しなければならないという「完璧主義」の考え方を一度緩めてみることが重要です。見た目を最優先するのではなく、自分に合った、自分に優しい収納システムを構築していくことこそが、部屋をきれいに保ち、片付けを継続するための非常に大切な鍵となります。
本当に効果的な「自分に優しい収納」の考え方
「憧れのミニマリストさんや、収納コンサルタントさんはきれいな収納を上手に使いこなしているのに!」と思うかもしれません。もちろん、そういったプロフェッショナルな方々の収納術は素晴らしいものです。しかし、片付けが苦手な方や、これまで挫折してきた方がまず目指すべきは、「完璧さ」や「見た目の美しさ」ではありません。
本当に効果的なのは、「戻しやすさ」を最優先に考えることです。物が使われた後に、いかにストレスなく元の場所に戻せるか。このシンプルながらも非常に重要なポイントを見落とさないことが、片付けを継続し、リバウンドを防ぐための秘訣です。自分にとって何が最も楽で、無理なく続けられるのかを重視し、完璧主義を手放す勇気を持つことが、真の「使いやすい収納」への第一歩となるでしょう。
参考文献:
- おむらちも『不思議なくらい部屋が片づく魔法の言葉』(幻冬舎)