23日、米国ドナルド・トランプ大統領の発表により日米間の関税交渉合意が明らかになった。これにより、米国向けの輸出に携わる九州地域の事業者からは、当初25%とされていた「相互関税」が15%に引き下げられる内容に安堵の声が広がった。しかし、一部の品目では依然として懸念が聞かれ、特に市場開放が盛り込まれたコメ農家からは、交渉を担当した日本政府への不信感もにじみ出ている。
自動車産業への影響と各社の声
乗用車関税引き下げへの安堵と評価
日米貿易交渉の結果、乗用車の対米関税が25%から15%に引き下げられることになった。大手自動車メーカー4社の工場が立地する九州・山口地方では、この決定を歓迎する声が部品メーカーなどから聞かれている。
福岡県の自動車工場向け設備を手掛ける機械メーカーの幹部は、今回の政府合意について「思っていたよりも税率が下がった印象だ。詳細な精査は必要だが、10%の引き下げは非常に大きい影響を持つ」と評価した。さらに、「決着したことが何よりも重要だ。先行きが不透明な状況では企業は動き出しにくい。今後は、この関税の影響を緩和するための対応を進めるのみだ」と前向きな姿勢を示した。
産業機械メーカーで自動車部品製造装置などを手掛ける平田機工(熊本市)も「関税が下がることは喜ばしい限りだ」と歓迎の意を表明している。同社の2024年度の売上高884億円のうち、3割を超える322億円が米国向けであり、米国市場は非常に重要だ。担当者は「グローバルな競争環境において、他国や地域との関税差がどうなるかが肝要となる。今後もその動向を注視していきたい」と語り、気を引き締めている。
米トランプ大統領、日米関税交渉の発表
一方で残る懸念と市場の不透明感
一方で、懸念の声も上がっている。福岡県のある自動車部品メーカーの担当者は、「関税が引き下げられたとはいえ、米国での自動車販売価格に関税分の上乗せが進めば、売れ行きが悪くなる可能性も依然としてある。しばらくは苦しい状況が続くかもしれない。大手自動車メーカーがどのような方針で車両を販売していくのか、その説明を待ちたい」と不安を口にした。
門司税関が発表した九州経済圏(九州・山口・沖縄)の6月の貿易統計(速報値)によると、米国への自動車輸出額は前年同月比で77.0%もの大幅な減少を記録しており、全国平均の26.7%減を大きく上回る影響を受けている現状が浮き彫りになっている。
コメ農家の不信感と市場開放の問題
日米関税交渉の合意には、日本がコメを含む農産物の分野で米国に市場を開放する項目も含まれている。この市場開放に関しては、特にコメ農家から政府に対する強い不信感が表明されている。国内の農業関係者の間では、関税引き下げが生産者の経営に与える影響や、今後の国内市場の競争激化への懸念が根強く、政府の交渉姿勢への厳しい視線が向けられている。
まとめ
今回の日米関税交渉の合意は、九州経済界にとって安堵と同時に、新たな課題も提示するものとなった。特に自動車産業における関税引き下げは歓迎される一方で、恒久的な固定化や競争環境の変化への懸念も残る。コメ農家からの不信感に見られるように、農産物市場の開放は、国内産業の保護と国際協調のバランスをいかに取るかという、日本政府にとって引き続き重要な課題となるだろう。今後も、各産業の動向と政府の対応が注視される。