現代自動車・起亜は、その研究開発の核心拠点である南陽(ナミャン)研究所を報道陣に公開しました。これは、電気自動車(EV)開発における同グループの高度な技術力と、現在の厳しい市場環境を技術で正面突破するという強い意志を示すものです。特に、EVの航続距離や信頼性に直結する空力性能の最適化から、過酷な気候条件下での耐久性検証まで、多岐にわたる最先端の研究・試験現場が披露されました。
「空力試験棟」:驚異の空気抵抗係数0.144を実現
南陽研究所の空力試験棟では、流線型の実験用車両「エアロチャレンジカー」が時速60キロの風を受ける試験が行われました。このコンセプトカーが達成した空気抵抗係数(Cd)は0.144という驚異的な数値で、これは世界最低水準とされる中国奇瑞汽車のコンセプトカー(0.168Cd)をも下回ります。この卓越した空力性能の秘訣は、ボンネット先端に装着された、ワイパー部分で発生する渦流を防ぐための昇降式「アクティブカウルカバー」と、車両後方左右のテールランプ横に取り付けられた約40センチの「サイドブレード」にあります。現代自動車関係者は、空気抵抗を0.01Cd下げることでEVの走行可能距離が6.4キロ伸びると説明し、空力性能がEVの効率性にいかに重要であるかを強調しました。
「環境試験棟」:極限状態でのEV性能検証
現代自動車グループは、トランプ関税による営業利益の急減や、対米EV輸出の減少といった複数の逆風に直面しています。こうした状況下で、研究施設の公開は、技術力で難局を打開しようとする同社の戦略を示唆しています。公開された核心施設の一つが、EVの高温・低温耐久性を評価する環境試験棟です。ここでは、氷点下30度という極寒環境下でEVを凍結させる実験が公開されました。EVは極低温下でバッテリー効率が低下し、結露による電子装置の故障や充電口の凍結といった問題が発生する可能性があります。この施設では、20分間の降雪・降雨試験を通じて問題点を特定し、ゴムシーリングなどの改善策を講じることで、あらゆる気候条件下でのEVの信頼性を確保しています。
現代自動車・起亜の南陽研究所における環境風洞チャンバー。氷点下30度の極寒や時速200kmの強風、降雪を再現し、EVの耐久性を検証する試験風景。
その他の主要研究施設:走行性能から騒音・振動まで
南陽研究所では、空力性能や環境耐久性試験以外にも、EVの総合的な性能向上に向けた様々な研究が行われています。「R&H性能開発棟」では、北米や中国などの異なる路面を模したパネル上で実車を高速回転させ、操縦性や走行性能を徹底的に試験しています。また、「NVH試験棟」では、ロードノイズ実験室などを通じて、車両内外の騒音や振動を抑制し、乗車感を最適化する研究が進められています。現代自動車・起亜は2016年にヒョンデ「アイオニック・エレクトリック」を発売し、EV市場に参入しました。テスラや日産に比べて後発ではありますが、既存の内燃機関車用施設をEV試験にも活用しながら、迅速な技術革新と品質向上に努めています。
結論
今回の南陽研究所の公開は、現代自動車・起亜が直面する困難な状況に対し、研究開発への惜しみない投資と最先端の技術力をもって対応していく姿勢を明確に示しました。空気抵抗の極限追求から、極寒環境下でのバッテリー性能検証、そして走行性能や快適性の向上まで、EVの全方位的な開発を通じて、同グループは将来のモビリティ市場におけるリーダーシップを確立しようとしています。今後も、南陽研究所から生まれる革新的な技術が、グローバルEV市場にどのような影響を与えるか注目されます。
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