今年7月に公示され、20日に投開票が行われた参議院選挙では、物価高対策や外国人政策に加え、「選択的夫婦別姓」の導入も主要な争点の一つとして注目を集めました。「選択的夫婦別姓で戸籍制度が崩壊する」といった根拠のない主張がSNS上で拡散される中、この制度を巡る議論は白熱。特に、今回の参院選で議席を大幅に伸ばした参政党に所属する衆院議員・吉川里奈氏のある発言が、憲法上の基本原則との矛盾を指摘され、大きな波紋を呼んでいます。
選択的夫婦別姓を巡る議論と法務省の見解
「選択的夫婦別姓」制度の導入を巡っては、立憲民主党、共産党、公明党などが賛成の立場を示しており、日本維新の会は旧姓使用の拡大に向けた法案を提出するなど、各党が多様な見解を示しています。一方、参政党は反対の立場を取り、神谷宗幣代表は導入によって戸籍制度が複雑化するとの見解を表明していました。
このような状況の中、「選択的夫婦別姓導入で戸籍なくなる」というSNSでの主張に対し、NHKは7月18日に検証記事を配信。法務省の見解を引用し、「戸籍制度は日本国民の親族関係を登録・公証するものであり、制度が導入された場合であってもその機能や重要性は変わるものではない」と、拡散された主張を明確に否定しました。
参政党・吉川里奈氏のX投稿とその真意
参政党の神谷宗幣代表が選択的夫婦別姓について見解を述べる様子。
NHKの検証記事に対し、参政党の吉川里奈衆院議員は投開票日前日の19日、自身のX(旧Twitter)で引用リポストを行い、「“戸籍がなくなる“とは言ってない」「賛成は25%、それ以外の国民が望んでないため、不要だと言ってます」と反論しました。
さらに吉川氏は、「お困りごとを解決する手当を考えましょう。ジェンダー平等、戸籍に縛られたくない方々の都合の良いように、法改正はさせません」と主張。そして、「我が国の最小単位は個人ではなく、家族なので」と結びました。この発言は、個人の権利よりも家族という単位を優先する、という吉川氏の意図を強く示唆するものでした。
日本国憲法との矛盾と社会の反応
吉川氏の「我が国の最小単位は個人ではなく、家族」という発言は、SNS上で即座に大きな反響を呼びました。「日本国憲法を読んだことがありますか?」「日本国憲法の最小単位は『個人』ですよ」「個人の尊重が抜け落ちてますな」といった批判の声が多数上がりました。
実際、日本国憲法第13条には「すべて国民は、個人として尊重される」と明確に記されています。明治憲法下の民法で定められていた「家制度」は、個人の尊厳が優先されるべきという考え方に基づき、現行憲法の施行と共に廃止された経緯があります。
政治部記者からは、吉川氏の発言が神谷宗幣代表が「家族は社会の最小単位のコミュニティ」と述べていた見解とも矛盾している可能性が指摘されています。また、様々な事情で身寄りのない人々を吉川氏がどのように捉えているのかという疑問も呈されています。吉川氏は6月16日にもX上で、「選択的夫婦別姓は、苗字だけの問題じゃないですからね。社会の最小単位である家族よりも個人第一主義、多数の国民よりも業界団体の声が最優先になっていますよ」と投稿しており、一貫して家族を個人に優先する立場を取っていることが伺えます。
結論
今回の参院選における「選択的夫婦別姓」を巡る議論は、単なる法改正の是非を超え、日本の社会構造における「個人」と「家族」という根源的な単位に対する認識を問うものとなりました。参政党・吉川里奈氏の「家族が最小単位」という発言は、日本国憲法が保障する「個人の尊重」の原則と正面から衝突し、多くの議論を巻き起こしています。現代社会において、多様な家族のあり方や個人の権利がどのように尊重されるべきか、そしてそれが国の制度にいかに反映されるべきか、今後の政治的・社会的な議論がますます重要となるでしょう。