北朝鮮・葛麻海岸観光地区の「演出」疑惑:露人記者が見た不自然な実態

ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相が北朝鮮を訪問した際、同行したロシア人記者が元山市の葛麻(カルマ)海岸観光地区リゾートを訪れ、その体験記を公開しました。この訪問は、ラブロフ外相が同リゾートに招待された初の外国高官として注目されました。しかし、記者の目に映ったのは、北朝鮮が宣伝する賑わいとは異なる「不自然な実態」であり、観光誘致のための「演出」が疑われる場面が多々ありました。

英語表記に驚き:予期せぬ看板の羅列

元山空港から観光地区へ移動中、記者は「Pub」「Restaurant」「Video Game Center」といった英語の看板が多数並んでいることに驚きを隠せませんでした。これらの看板には英語と現地の言葉が併記されていましたが、ロシア語や中国語の表記は見当たりませんでした。現在、ロシアは事実上、北朝鮮を訪問する唯一の外国であり、今年1月から5月までのロシア人訪問者数は、2019年全体の3倍に達するという統計もある中で、この言語表記は異例の光景と言えます。

豪華な食事と手頃な宿泊費:見かけの魅力

北朝鮮側の招待でホテルのレストランで食事をした記者たちは、前菜4品、メイン7品、デザート3品、合計14品のコース料理を堪能しました。驚くべきことに、この豪華なコースは一人当たりわずか10ドル(約1500円)だったと報じられています。ホテルの宿泊費は1泊90ドルで、客室にはスリッパ、タオル、アイロン、使い捨て洗面用具、特産の飲み物が入ったミニバーなどが完備され、バルコニーからは数キロメートルに及ぶ美しいビーチが一望できたとのことです。

閑散としたビーチと不審な「観光客」の正体

しかし、北朝鮮の国営通信社「朝鮮中央通信」が「韓国人観光客が利用中だ」と発表したにもかかわらず、記者が訪れた12日午前までビーチは閑散としていました。ホテル2階のビリヤード場では、スーツ姿の男女が朝から晩までビリヤードに興じ、深夜になり記者たちが部屋に戻ってからようやく立ち去る様子が目撃されました。

北朝鮮・葛麻海岸観光地区で「労働新聞」が報じた観光客の様子。露人記者が目撃した「演出」された賑わいの瞬間。北朝鮮・葛麻海岸観光地区で「労働新聞」が報じた観光客の様子。露人記者が目撃した「演出」された賑わいの瞬間。

記者は、このビリヤード場のカップルだけでなく、「公園のベンチでタバコを吸い続ける人、海辺で自転車に乗る人、バーのテラスでジョッキを持って座っている人」など、強い日差しの下でリゾート客のふりをする他の人々も目撃。彼らの一部は朝鮮労働党のバッジを身につけ、流暢なロシア語を話したといい、リゾートの賑わいが意図的に「演出」されたものである可能性を強く示唆しています。

ラブロフ外相到着で変わる光景:真の観光客の登場

実際にロシア人観光客がリゾートを利用する姿を記者が目撃したのは、12日の夕方になってからでした。彼らは記者に対し、「さまざまな手続きを経てやっと入国できた」「多くの紆余曲折があって、このリゾートに来られるかどうか確信できなかった」と語りました。また、ラブロフ外相が到着した11日以降になってようやく、ビーチで遊んだり日光浴を楽しんだりする北朝鮮の人々など「命のシグナル」が初めて現れたと明かしました。

ラブロフ外相の到着日に合わせてロシア人観光客が元山に来たことや、ビリヤード場にいたカップルの不自然な行動など、数々の疑わしい場面が単なる偶然だったのかどうか、記者は確認する時間が足りなかったと訪問記を締めくくっています。

参考資料