ドイツ国防省は、国の防衛力強化計画の一環として、18歳の男性に兵役準備状況を確認するための徴兵検査を受ける義務を復活させることを発表しました。この動きは、ロシアによる継続的な脅威と、米国による欧州安全保障への関与に関するドナルド・トランプ元大統領からの疑問視といった、変化する地政学的状況への対応として位置付けられています。保守派のフリードリヒ・メルツ首相は、ドイツ連邦軍(Bundeswehr)の増強を最優先事項として掲げています。
背景と必要性:なぜ今、徴兵検査が復活するのか
現在、ドイツが直面している安全保障上の課題は、この新たな措置の導入を強く推進する要因となっています。ロシアによるウクライナ侵攻以来、欧州の防衛意識は高まり、ドイツも例外ではありません。メルツ首相は、脆弱と指摘されるドイツ連邦軍の強化を急務と捉え、「欧州最強の通常軍」の構築を目指しています。この取り組みは、当初は志願兵の募集に重点を置きますが、目標の兵力数に満たない場合に備え、将来的には兵役義務を課す規定も法案に盛り込まれています。厳格な債務抑制策を掲げるドイツ政府において、国防費がほぼ免除される抜本的な改革が実施されたことからも、その強い意志が伺えます。
新制度の具体的内容と対象者
来月閣議に提出される予定の法案では、全ての若いドイツ人男性に対し、兵役への準備状況と意欲に関する質問票の記入が義務付けられます。一方、若い女性は任意で回答することが可能です。さらに、2028年からは、入隊の意思の有無にかかわらず、全ての18歳男性が徴兵検査を受けることが義務付けられる方針です。法案には、安全保障環境の変化を理由に必要と判断され、連邦議会が明示的に承認した場合には、徴兵制を完全に復活させることも規定されており、将来的な選択肢を確保しています。
ドイツ連邦軍の現状と目標
ドイツはアンゲラ・メルケル政権下の2011年に徴兵制を正式に停止しました。現在のドイツ連邦軍の兵力は、現役兵が約18万人、予備役が4万9000人ですが、新兵採用には苦戦している状況です。国防省は今年、前年比5000人増となる1万5000人の入隊を見込んでいます。最終的な兵力目標は、現役26万人、予備役20万人、合計46万人の大規模な軍隊を構築することです。
フリードリヒ・メルツ独首相。ドイツの防衛力強化と徴兵検査義務化を推進する主要人物。
志願兵への依存と今後の展望
政府は今のところ、兵力増強を志願兵に頼る計画で、2031年までに毎年4万人の入隊を目指しています。そのため、新技術や語学の訓練機会の提供など、兵役自体の魅力を高める取り組みも同時に進められています。近隣国では、北欧のスウェーデンが2010年に徴兵制を廃止したものの、2017年には安全保障環境の変化を受けて復活させるなど、同様の動きが見られます。ドイツの今回の決定は、欧州全体の防衛戦略と密接に連携しながら、来るべき課題に対応するための重要な一歩となるでしょう。
参考文献
- AFPBB News / 時事通信社 (2024年7月24日). ドイツ、18歳男性への徴兵検査義務を復活 防衛力強化へ. Yahoo!ニュース. https://news.yahoo.co.jp/articles/e88c38b2f37ea2eef06f519acb98f04a4ecdfb6