トランプ米政権が日本と合意した自動車関税率の引き下げが、米国産業界や労働組合からの強い反発に直面しています。この合意内容が、米国メーカーに不利な競争条件を生み出す可能性が指摘されており、今後の日米間の新たな貿易摩擦の「火種」となる懸念が高まっています。特に、日本製の自動車に課される関税率が、米国内の雇用を生む隣国生産車より低くなる現状が不公平感を招いています。
米国の自動車輸入関税を巡る状況は複雑です。今年4月に米国が発動した輸入車に対する25%の追加関税は、日米合意により日本からの自動車に対しては半分の12.5%が適用されることになりました。これに既存の関税率2.5%を加えると、合計で15%が日本車に課されることになります。
日米自動車関税率の比較グラフ。日本車15%と北米生産車25%の税率差を示す。
米メーカーが置かれる不利な立場
一方、米自動車大手、特にフォード・モーターやゼネラル・モーターズ(GM)などは、米国と自由貿易協定を結ぶ隣国のカナダやメキシコに部品生産や組み立て工場を置いています。これらの工場で製造され、米国に輸入される完成車には、依然として25%の関税が課せられます。結果として、米国メーカーが隣国で生産し、米国に輸入する自動車の方が、日本から直接輸入される自動車よりも高い関税を支払うことになり、不公平な価格競争を強いられる可能性があります。
米自動車業界団体の強い批判
このような状況に対し、米国の自動車業界団体からは強い非難の声が上がっています。米フォード・モーターやGMなどが加盟する圧力団体「米自動車政策評議会」のブラント会長は、声明を発表し、「米国製部品をほとんど含まない日本車に、北米生産車より低い関税を課すのは不当だ」と強く批判しました。この発言は、国内産業の保護と雇用維持を求める米国の姿勢を明確に示しています。
記者会見で発言するトランプ大統領。日米貿易交渉の進展と国内からの反発に言及する場面。
全米自動車労働組合(UAW)の反発と公平性への疑問
全米自動車労働組合(UAW)も、日米合意に対する深い憤りを表明しています。23日には「米労働者は再び置き去りにされた」と批判する声明を発表し、米国企業の競争条件を外国勢と公平にするはずの関税措置が、「日本企業にさらなる優遇を与える」結果になっていると指摘しました。これは、貿易協定が米国内の労働者にとって公平であるべきだという彼らの強い主張を反映しています。
全米自動車労働組合(UAW)のロゴと、貿易政策に抗議する労働者のデモ。米国内の雇用と産業保護を求める声。
USMCAの存在と合意の不確実性
一方で、北米3カ国の自由貿易協定「USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)」には、北米産の部品が一定比率以上の自動車に対する優遇措置が盛り込まれています。そのため、一概に日本車が常に有利になるわけではないという見方もあります。
しかし、日米合意には詳細が不明な点が多く、日本政府関係者によると、日本車への関税引き下げの発効日も未定のままです。米政権内からは、トランプ大統領が日本の合意順守に不満を抱いた場合、「関税率は自動車も含めて25%に逆戻りする」(ベセント財務長官)との指摘もさっそく出ています。
北米の自動車工場で生産ラインを視察する労働者。USMCA下の自動車生産と貿易政策の複雑さを示唆。
結論:貿易摩擦再燃の不透明性
米国内から日米合意内容への強い突き上げが続けば、トランプ政権が再び関税を引き上げる恐れは拭いきれません。これにより、合意の履行に向けた不透明さが残り、日米間の貿易摩擦が再燃する潜在的なリスクをはらんでいます。今後の米国内の動向と、それに対するトランプ政権の対応が注視されます。