2025年7月23日、欧州連合(EU)のアントニオ・コスタ欧州理事会議長とウルズラ・フォンデアライエン欧州委員長は、石破茂首相と日本で会談を行いました。この会談で双方は「日・EU競争力アライアンス」の発足を合意し、経済安全保障、産業政策、イノベーション、エネルギーといった幅広い分野での具体的な協力強化を確認しました。日本とEUが共通の価値観である民主主義や法の支配、基本的人権を共有していることは、この協力関係の強固な基盤となります。
2025年7月23日、石破茂首相と会談後、記者会見に臨むフォンデアライエン欧州委員会委員長
「敵の敵は味方」論の背景とEUの保護主義的側面
日本とEUは、今日の地政学的、経済的課題において共通の困難に直面しています。協力関係にあるはずの米国からは保護主義的な輸入関税で、急速に台頭する中国からは輸出規制によって圧力を受けています。この共通の外部圧力は、両者間の協力の余地を大きく広げる要因と見られています。
しかし、この協力関係を単に「敵の敵は味方」という理屈で捉えるだけでは、その深層にあるEUの思惑を見誤る可能性があります。EUは、米国の保護主義を批判する一方で、自らも保護主義的な政策を強化している側面があります。例えば、EUが重視する脱炭素化政策は、実態として非関税障壁の性格が強く、日本の製造業に多大な圧力をかけ続けてきました。さらに、政府支援を受けた中国製品の不当な競争力に対して高関税を課したり、域内企業への補助金を強化したりする動きも、保護主義そのものです。日本が重視する自由貿易体制とEUが描く経済観には、必ずしも一致しないズレが存在すると言えるでしょう。
日本の戦略的視点:EUを「利用」する重要性
それでもなお、日本が米国や中国といった大国に単独で対峙することは非現実的であり、EUとの協力には一定の意義があります。ここで重要な視点は、EUが日本を利用しようとしているのと同様に、日本もまたEUを戦略的に活用するという相互利用の関係性です。老獪な交渉術を持つEUは、一見平等に見せかけながら、自らに有利な方向に議論を導こうとします。これに対し、日本がいかに賢明に対抗し、自国の利益を最大化できるかが問われます。
EUが日本に期待する「重要鉱物資源の権益確保」
EUが日本に期待している具体的な協力分野の一つに、国内外で推進しようとしている重要鉱物資源開発への投資があります。世界経済にとって、レアアース(希土類元素)などの重希鉱物は極めて重要なボトルネックとなっています。スマートフォンから電気自動車、風力発電タービンに至るまで、様々なハイテク製品に不可欠であり、今後その需要はますます高まると予想されています。現在、このレアアースの供給をほぼ一手に担っているのが中国であり、サプライチェーンの安定性確保はEUにとって喫緊の課題です。EUは、中国への過度な依存を脱却し、安定的な供給源を確保するため、日本からの技術的・財政的協力を強く望んでいるのです。
結論
日EU間の協力は、共通の課題と価値観に根ざしながらも、双方の戦略的利害が複雑に絡み合う多面的な関係です。特に経済安全保障や重要鉱物資源の確保といった分野では、EUは日本からの具体的な協力を強く期待しています。日本としては、この機会を自国の安全保障と経済的利益に繋げるべく、EUの思惑を深く理解し、単に「敵の敵は味方」という構図に安住することなく、自らも能動的にEUを「利用」する老獪な外交戦略が求められます。
参考資料
- POOL/ZUMA Press Wire/共同通信社 (写真提供)
- Yahoo!ニュース
- PRESIDENT Online