私立教育の全費用:幼稚園から大学まで、公立との差額と知っておくべきこと

友人との会話で、お子さんを幼稚園から大学まで一貫して私立校に通わせるという話を聞き、その教育費が一体どれほどのものになるのか、疑問を感じたことはないでしょうか。一般的に私立校は公立校よりも学費が高いとされていますが、その具体的な差額や総額を正確に把握している人は少ないかもしれません。実は、想像以上に大きな金額が必要となる私立教育。本記事では、文部科学省の調査データに基づき、幼稚園から大学卒業までの私立教育にかかる総費用を公立教育と比較し、特に見落とされがちな学費以外の出費についても詳しく解説します。教育資金の計画を立てる上で、ぜひ参考にしてください。

幼稚園から大学まで:私立と公立の教育費総額比較

私立教育の費用を具体的に見ていくため、まずは文部科学省が公表している「令和5年度子供の学習費調査」および「国公私立大学の授業料等推移」のデータをもとに、幼稚園から大学までの教育費総額を公立と私立で比較してみましょう。

子どもの教育費について考える保護者のイメージ。日本の私立教育費の負担、家計への影響、そして学費以外の費用について懸念する様子を表しています。子どもの教育費について考える保護者のイメージ。日本の私立教育費の負担、家計への影響、そして学費以外の費用について懸念する様子を表しています。

図表1 教育段階別の教育費の比較

幼稚園から大学までの私立と公立の教育費総額比較を示した表。各教育段階における学習費の内訳と総額が円単位で詳細に記載されており、両者の費用差が明確に示されています。幼稚園から大学までの私立と公立の教育費総額比較を示した表。各教育段階における学習費の内訳と総額が円単位で詳細に記載されており、両者の費用差が明確に示されています。

文部科学省「令和5年度子供の学習費調査」、「国公私立大学の授業料等推移」をもとに筆者作成

上記のデータから明らかなように、幼稚園から大学まですべて私立校に通わせた場合、その総額は約2384万円に達します。これは公立校のみに通わせた場合の約849万円と比較して、実に約1535万円も多くかかる計算となります。この差額は、一般的な住宅の購入費用に匹敵するほどの大きな金額であり、長期的な視点での教育資金計画の重要性を示唆しています。

私立教育の年間・月間費用:特に負担が大きい時期とは

私立教育に要する約2384万円という総額を、幼稚園入園から大学卒業までの18年間で均すと、月額およそ11万円の出費となります。しかし、この費用は教育段階によって大きく異なります。

特に費用が突出して高いのは、小学校の6年間です。私立小学校に通う場合の6年間にかかる費用は約1097万円とされ、これは年間約183万円、月額に換算すると15万円以上にもなります。小学校の段階で高額になる理由としては、授業料や施設費に加えて、高額な制服代、教材費、遠足や修学旅行の費用、さらには独自の習い事や語学学習、送迎バス費用などが加算されるためです。義務教育期間である公立小学校では無償の部分が多いことを考えると、私立小学校の費用は家計に与えるインパクトが特に大きいと言えるでしょう。

高校の授業料無償化制度の拡大と家計への影響

高校の授業料負担軽減策として「高等学校等就学支援金制度」がありますが、令和7年度の国会での審議の結果、この制度の対象範囲が拡大されることが決定しました。これまでは年収約910万円未満の世帯が主な対象でしたが、令和7年度限定で「高校生等臨時支援金」が創設され、年収910万円以上の世帯も一時的に支援対象となる見込みです。さらに、令和8年度以降には所得制限の撤廃も検討されています。

これらの動きは、家計にとってある程度の負担軽減には繋がると期待されます。しかしながら、ここで注意すべきは、この支援金が「授業料」の一部または全額をカバーするものであり、教育費全体から見ればごく一部に過ぎないという点です。私立高校の教育費には授業料の他に、施設費、教材費、制服代、修学旅行積立金など多岐にわたる費用が含まれており、これらは自己負担となるため、準備すべき金額は依然として大きいと言えるでしょう。

見落としがちな「授業料以外」の教育費:私立特有の出費

教育費を考える際、多くの方が授業料に注目しがちですが、実は国公立と私立の教育費の大きな差は、授業料以外の見過ごされがちな費用が積み重なることによって生じます。これらの出費を考慮に入れておくことが、教育資金計画においては非常に重要です。

  1. 制服・教材・通学交通費
    私立の小・中・高校では、ブランド制服を採用している学校も多く、公立に比べて制服代が高額になる傾向があります。また、独自のカリキュラムや高度な学習に対応するため、指定の専門教材、タブレット端末やPCなどのデバイス購入が必須となるケースも増えています。オンライン学習アプリの利用料や、自宅でのWi-Fi環境整備も自己負担となるのが一般的です。さらに、遠方から通学する場合の交通費や、スクールバスの費用も年間で大きな金額になることがあります。

  2. 塾・習い事・受験費用
    私立学校は、学校独自の特色ある教育プログラムや課外活動が充実していることが多いです。例えば、部活動で外部から専門のコーチを招いたり、特定の分野で実績のある講師による特別授業を提供したりする場合があります。これらの活動参加費は、別途徴収されることがほとんどです。また、難関大学への進学を目指す私立高校では、学校内で受験対策講座を開設したり、外部の予備校と提携して授業をカリキュラムに組み込んだりすることも。これらの費用も、教育費として自己負担になります。さらに、複数の学校を受験する際の受験料、願書作成費用、交通費なども積もり積もればかなりの額になります。

  3. 大学入学後の仕送りや一人暮らし費用
    大学進学を機に実家を離れ、一人暮らしを始める学生も少なくありません。この場合、学費に加えて家賃、食費、光熱費、通信費、交通費などの生活費が別途必要になります。日本学生支援機構(JASSO)の調査によると、自宅外通学の場合の生活費は年間で約100万円以上かかることもあり、これが4年間続けば数百万円の追加出費となります。私立大学の学費と合わせると、親元を離れた場合の総教育費はさらに膨らむ可能性があります。

  4. その他見落とされがちな費用
    上記の他にも、学校への寄付金、PTA会費、保護者会活動費、運動会や文化祭などのイベント費用、卒業アルバム代、高額な海外研修や修学旅行の費用など、細かな出費が多数存在します。これらは一度の金額は小さくても、積み重なることで大きな負担となるため、見過ごすことはできません。

まとめ

幼稚園から大学まですべて私立校を選択した場合の教育費総額は、公立校と比較して約1535万円もの差があり、総額で約2384万円にも達することが明らかになりました。特に小学校期間は月額15万円以上かかることもあり、家計への負担は決して小さくありません。

高等学校の授業料に対する国の支援制度が拡充される動きはあるものの、教育費は授業料のみならず、制服代、教材費、通学費、習い事や塾、そして大学入学後の生活費など、見落とされがちな「学費以外の出費」が非常に大きいという点を認識しておく必要があります。これらの隠れた費用が、最終的な教育費総額を大きく押し上げる要因となります。

お子さんの教育環境を考える際には、早期から具体的な費用の内訳を把握し、長期的な視点での資金計画を立てることが何よりも重要です。

参考資料

  • 文部科学省「令和5年度子供の学習費調査」
  • 文部科学省「国公私立大学の授業料等推移」
  • 日本学生支援機構「学生生活調査」