米ニューヨーク中心部の高層ビルで28日夕に発生した銃撃事件で、4人が殺害されました。事件後、銃で自殺した容疑者が、自身の脳の損傷をアメリカンフットボールの統括団体ナショナル・フットボール・リーグ(NFL)の責任とする内容のメモを残していたと、エリック・アダムス・ニューヨーク市長が29日、明らかにしました。事件現場のビルには、偶然にもNFLの本部オフィスが入居しています。
事件の経緯と容疑者の行動
ラスヴェガス在住のシェイン・タムラ容疑者(27)は、ビル内で発砲を繰り返した後、自ら命を絶ちました。容疑者はNFL本部が入る階には止まらないエレベーターに乗り、誤って33階にあるビル管理会社ルーディン・マネジメントのオフィスに向かったとみられています。同社はこのビルの所有者です。
ライフルを手に高層オフィスビルへ向かう銃撃事件容疑者の監視カメラ映像
動機の詳細とCTEとの関連
アダムス市長によると、容疑者が所持していたメモには、頭部の外傷が引き金となる慢性外傷性脳症(CTE)によって、自身の精神疾患が引き起こされたと記されていました。市長は米CBSニュースに対し、「彼がCTEを患っていると感じていることが書かれていた。自分の損傷はNFLのせいだとしていたようだった」と説明しました。米ABCニュースは当局幹部の話として、メモには「どうか私の脳を研究してほしい」という記述に加え、「申し訳ない」とも書かれていたと報じています。メモは3ページに及び、容疑者の遺体から発見され、まとまりのない書き方だったと当局は述べています。
容疑者の背景
容疑者は高校時代にカリフォルニアでアメリカンフットボールをプレーしていましたが、NFLでプロとしてプレーした経験はありませんでした。元チームメイトらが米NBCニュースに語ったところによると、彼は才能に恵まれた努力家のランニングバックで、「素晴らしい選手」だったと元コーチは評価しています。
犠牲者と負傷者
この銃撃事件で殺害された4人の中には、事件当時、現場ビルの警備員として勤務していたニューヨーク市警の元警官ディダルル・イスラムさん(36)が含まれています。バングラデシュ出身の移民であるイスラムさんは、2人の子どもを持ち、妻は現在妊娠中でした。ニューヨーク市警のジェニファー・ティッシュ本部長は、「彼は我々が求めた職務を全うし、身を危険にさらし、究極の犠牲を払った。生きていた時と同じように英雄として死んだ」と追悼しました。
また、このビルに入居する金融大手ブラックストーンの従業員、ウェスリー・ルパトナーさんも犠牲となりました。ブラックストーンはルパトナーさんを「優秀で、情熱的で、温かく、寛大で、社内外で深く尊敬されていた」と追悼メッセージを発表しました。他に2人の民間人男性が殺害されていますが、詳細はまだ公表されていません。
NFLのロジャー・グッデル・コミッショナーが職員に出したメッセージによると、今回の事件ではNFLの従業員1人が「重傷を負った」とされています。米紙ニューヨーク・デイリー・ニュースは、このNFL職員が財務部門で働くクレイグ・クレメンティさんで、義父の話として、帰宅途中に銃撃され、手術を受け回復に向かっていると報じました。
結論
今回のニューヨーク高層ビル銃撃事件は、CTEによる精神疾患とNFLへの恨みが動機と見られる容疑者が、目的の場所を誤って犯行に及んだという悲劇的な側面が明らかになりました。犠牲となった罪のない人々、特に地域社会を守るために命を捧げた警官や、将来を期待されていたビジネスマンの死は、銃社会が抱える問題と精神健康問題の深刻さを改めて浮き彫りにしています。
情報源: BBC News