石破首相退陣間近か?ポスト石破を巡る高市早苗氏の苦境と政権運営の課題

参院選での敗北後も続投の意向を示していた石破茂首相だが、8月8日に両院議員総会が開催されることが決まり、その退陣は時間の問題と見られている。これに伴い、水面下では「ポスト石破」を巡る動きが活発化している。しかし、参院選で自公の敗北が確定する前から「フライング」気味に意欲を見せていた高市早苗氏の旗色は、あまり芳しくないようだ。

高市氏の「フライング」と推薦人確保の課題

参院選終盤の7月18日、奈良県での応援演説で「私なりに腹をくくった。もう一度、党の背骨を入れ直す。そのために戦う」と発言した高市氏。投開票日の前々日というタイミングであり、各社の情勢調査で自民・公明両党の劣勢が伝えられていたことから、「石破おろし」を見越して「ポスト石破」への意欲を滲ませた発言と受け止められた。
その後、石破首相が続投の意向を表明したにもかかわらず、退陣が不可避の情勢となったため、高市氏は積極的に党の重鎮らとの会談を重ねている。派閥を率い、前回の総裁選の決選投票で高市氏を支持した麻生太郎最高顧問や、旧安倍派の幹部だった西村康稔元経済産業相とも面会したとされる。
しかし、こうした動きに対し、自民党内からは冷ややかな声も上がっている。「前回の総裁選でも20人の推薦人を集めるのに苦労したのに、今回の衆院選と参院選で杉田水脈氏をはじめとする、かつての推薦人の約半数の議員が落選した。そもそも今回、推薦人を集められるのか疑問だ」と、ある自民党関係者は指摘する。さらに、「麻生氏が前回支持したのは『過去に麻生おろしを仕掛けた石破は絶対に嫌だ』という理由から決選投票で高市氏を支持したに過ぎない。仮に旧安倍派に担がれたとしても、世間のイメージは最悪だろう」との見方も示されている。

高市早苗氏が政治集会で演説する様子。ポスト石破の動きが活発化する中、その課題が浮き彫りに。高市早苗氏が政治集会で演説する様子。ポスト石破の動きが活発化する中、その課題が浮き彫りに。

少数与党下の高市政権:保守層の期待と現実のギャップ

たとえ念願叶って首相に就任できたとしても、保守層が期待する高市氏のカラーを打ち出し続けるのは容易ではないだろう。高市氏と似た政治信条を持つ首相としては安倍晋三氏がいたが、安倍氏は国政選挙で連勝し、自身の基盤を安定させた上で、憲法改正など保守層に受けるスローガンを掲げ続けていた。
しかし、高市氏が首相になった場合、衆参ともに少数与党の状況では、政権運営自体が綱渡りとなり、保守色を強く打ち出し続ける余裕はなさそうだ。全国紙の政治部記者は「石破政権は6月に年金改革関連法案を巡り、国民民主党や日本維新の会が反対する中、立憲民主党の賛成を取り付けた。これは石破首相と立憲の野田佳彦代表の信頼関係もあってできたことだ。保守系の高市氏が首相になれば、リベラル色の強い立憲は距離を置くでしょうし、衆参とも少数与党ですから、石破政権時代より野党との協調は難しい課題です。こうした状況下で、高市氏が自身のカラーを出し続けるのは簡単ではないでしょう」と分析する。
さらに、安倍氏の時代とは保守層を取り巻く状況も異なっている。安倍氏周辺の関係者は「安倍氏の場合、第1次政権で、いわゆる愛国心を巡る文言を盛り込んだ教育基本法改正など、保守系の政策実現を優先させすぎ、結果として支持を失ったという反省があった。そのため、第2次政権では憲法改正についても『唱えるけれども無理に実現しない』というスタンスが滲み出ていた。それでも当時は参政党も国民民主党もなかったので、保守層はおおむね安倍氏を支持していた。今、高市氏が首相になっても憲法改正や靖国神社参拝を実現できないとなると、頼みの綱の保守層が離れてしまう恐れがあります」と警鐘を鳴らす。

高市早苗氏は「ポスト石破」への意欲を早期に示したものの、その道のりは決して平坦ではない。党内の推薦人確保の困難さ、そして少数与党下での政権運営という現実的な課題は山積している。安倍晋三氏の成功体験とは異なる政治情勢の中で、保守層の期待に応えつつ、野党との協調も図るという両立は極めて難しいだろう。今後の自民党総裁選の行方と、その後の日本の政治の動向が注目される。

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