文部科学省の定義と実態:見過ごされがちな「不登校傾向」の子どもたち

文部科学省の調査が示す不登校の定義と、一般的な不登校のイメージには大きな隔たりがあります。年間欠席日数や欠席理由といった基準は、時に現実の不登校問題の全容を捉えきれていない可能性があります。特に「不登校予備軍」と見なされる子どもたちの存在は、統計の影に隠れて見過ごされがちです。本稿では、文部科学省の定義と、それによって見えにくくなっている不登校の実態、そして「不登校傾向」の子どもたちが抱える課題について深掘りします。

文部科学省による不登校の定義とその実情

文部科学省は毎年、「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」を実施し、不登校に関する統計を公表しています。最新の2023年度調査では、不登校に該当する小・中学生は合計34万6482人でした。内訳は小学生が13万370人(全体の2.1%)、中学生が21万6112人(全体の6.7%)です。この数字は、30人学級の場合、中学校では1クラスに2人程度、小学校では2クラスに1人程度の不登校の子どもがいることを示します。

文部科学省が定める不登校の定義は、「何らかの心理的、情緒的、身体的、あるいは社会的要因・背景により、児童生徒が登校しないあるいはしたくともできない状況」であり、かつ「その状況で年間30日以上欠席した子どものうち、欠席が病気や経済的理由ではない場合」とされています。

この「年間30日以上の欠席」という基準が重要なポイントです。これは、裏を返せば「完全に欠席していなければ、不登校とはみなされない」という側面を持っています。例えば、以下のようなケースは、学校が出席とみなす限り、文部科学省の定義する不登校にはカウントされません。

  • 登校したものの、授業に参加できず保健室で一日を過ごす「保健室登校」の子ども。
  • 短時間だけ学校に顔を出し、すぐに帰宅する子ども。
  • 登校はするものの、特定の授業や活動には参加しない子ども。

これらの子どもたちは、学校に「登校」していると見なされるため、統計上の不登校には含まれないのです。しかし、彼らが抱える困難や学校への適応の課題は、不登校の子どもたちと何ら変わりありません。

不登校の現状を示す子どもと数字のイメージ不登校の現状を示す子どもと数字のイメージ

見過ごされがちな「不登校傾向」の子どもたち

文部科学省の統計だけでは見えない不登校の実態を明らかにする画期的な調査が、2018年に日本財団によって実施された「不登校傾向にある子どもの実態調査」です。この調査は、文部科学省の定義する不登校の子どもに加えて、より広範な「不登校傾向」にある子どもの存在を示しました。

日本財団の調査では、「1週間以上の欠席」や「保健室登校」などの状態を「不登校傾向」と定義し、その割合は合計で10.2%に上ることが判明しました。この割合を全国に当てはめると、33万人以上もの子どもが「不登校傾向」にあると推計されます。例えば、文部科学省の同年度の調査で不登校の中学生が約12万人であったのに対し、日本財団の調査からはさらに約33万人もの「不登校傾向」の中学生がいる可能性が示唆されたのです。

日本財団による不登校傾向にある子どもの実態調査グラフ日本財団による不登校傾向にある子どもの実態調査グラフ

この結果は、文部科学省の発表する不登校の数字を見る際に、その数倍に及ぶ「学校になじめない」子ども、すなわち「不登校予備軍」が存在する可能性を考慮する必要があることを強く示唆しています。不登校問題は、単に学校を休む子どもの数だけでなく、学校生活に困難を抱えながらも登校を続けている、あるいは部分的にしか登校できていない子どもたちまで含めた、より広範な社会的課題として捉えるべきです。

まとめ

文部科学省が公表する不登校の統計は、定義上の「不登校」の数を正確に示していますが、その実態はより複雑で広範にわたります。年間30日以上の欠席という基準や、病気・経済的理由を除くという条件により、保健室登校や部分的な登校など、学校生活に困難を抱える多くの「不登校傾向」の子どもたちが統計からこぼれ落ちています。日本財団の調査が明らかにしたように、その数は文部科学省の発表する不登校の数よりもはるかに多く、潜在的な不登校予備軍を含めると、不登校問題の真の規模は想像以上に大きいと言えるでしょう。この現状を理解し、見過ごされがちな子どもたちへの支援の必要性を社会全体で認識することが、これからの課題解決に向けた第一歩となります。

参考文献