岩手県金ケ崎町では、青々とした田園風景が広がるはずのこの時期に、かつてない深刻な水不足に見舞われています。貯水率が低下する中でもなんとか放水を続けるダムがある一方で、肝心の水田は水が届かず干上がっている状況です。本来ならば10センチほどの水が張られるべき田んぼには水が一滴もなく、地面には無数のひび割れが刻まれています。この「消えた水」は一体どこへ行ってしまったのでしょうか。当サイトは、この水不足の謎と農家が直面する厳しい現実を調査しました。
深刻な干ばつ被害と農家の苦悩
コメ農家歴50年の高橋正則さん(69)は、自身の田んぼが全く水を受けていない現状に言葉を失っています。「全然水がきていませんね」と語る高橋さんの田んぼでは、毎年育てている「ひとめぼれ」の葉先が赤く変色し、枯れる寸前の状態です。根も十分に張っておらず、通常はまっすぐに密に伸びるはずの稲は勢いを失っています。穂がふくらむこの重要な時期に水がなければ、コメは実らず、収穫量に大きな影響が出ることが避けられません。高橋さんは、「7月は全然雨が降ってない。一番水がほしい時期に。稲の成長にとってもマイナスで、収穫、収量的にも落ちる」と深刻な懸念を示しています。
金ケ崎町の今月の雨量はわずか13ミリと、平年の7%にとどまっています。先月と合わせても58.5ミリで、例年の18%という記録的な少雨です。高橋さんは、「正直、ゲリラ豪雨的なものが、この辺だけでもいいから…」と、切実な願いを口にしました。
水不足によりひび割れた岩手県金ケ崎町の田んぼ。稲の生育に不可欠な水がない深刻な状況を示す。
湯田ダムの水位と消えた水の行方
雨が降らない時の農家の命綱となるのが、町へ農業用水を送る巨大な貯水施設、湯田ダムです。7月31日時点でのダムの様子を見ると、普段より水位はやや低いものの、決して干上がっているようには見えません。水源に十分な水があるように見えるのに、なぜ田んぼに水が届かないのでしょうか?
我々が田んぼに水を届けるはずの用水路を確認したところ、水が流れていないことが判明しました。この謎を解明するため、水の流れをたどってダムのある上流を目指しました。すると、田んぼから数キロ離れた場所の用水路では、下流の用水路とは異なり、少しずつ水が流れているのが確認できました。さらにダムの周辺まで進むと、先ほど取材した下流の干上がった田んぼとは対照的に、水が引かれている水田が広がっていました。ダムに近い上流では水が流れているにもかかわらず、下流に行くほど水がなくなるこの現象は、水管理の複雑さと課題を浮き彫りにしています。
結論:水管理の課題と今後の展望
岩手県金ケ崎町で発生している「ダムの水があるのに田んぼが干上がる」という異常事態は、単なる気象変動だけでなく、地域における水資源の配分と管理のあり方に深く関わる問題を示唆しています。気候変動による異常気象が常態化する中、湯田ダムのような重要な農業用水源からの水が効率的に、そして公平に下流の農地に届くようなシステムの見直しや対策が急務と言えるでしょう。この問題は、地域農業の持続可能性だけでなく、食料安全保障にも直結する喫緊の課題であり、今後の水管理における新たな知見と技術、そして関係機関間の連携が強く求められます。