複数の米欧メディアが2日、インドがロシア産原油の輸入を今後も継続する方針だと報じました。これは、ウクライナ侵攻を続けるロシアの主要な収入源を細らせようと、トランプ米政権がロシアと取引する第三国に「2次関税」を課す圧力をかけていたにもかかわらず、インドが安価なロシア産原油を輸入する経済的利点を重視した可能性を示唆しています。この動きは、米印間の貿易交渉をさらに難航させ、両国関係に深刻な影響を与える可能性があります。
インドの原油輸入継続の背景と米国の圧力
インドは、エネルギー安全保障と経済的利益を両立させるため、ロシア産原油の輸入を続けています。国際市場における原油価格の変動に対し、安価な供給源を確保することは、インド経済にとって大きなメリットです。トランプ米政権は、ロシアへの経済的圧力を強化する一環として、ロシアと取引を行う第三国に対して「2次関税」を適用すると明言しており、インドもその対象となるリスクを抱えています。トランプ米大統領はインドがロシア産原油の輸入を継続した場合、「ペナルティーを科す」と改めて警告しています。
米印関係への影響と貿易交渉の課題
米印間の貿易交渉は以前から難航しており、トランプ政権は7日からインドに対して25%の高関税を課す方針を示しています。今回のロシア産原油輸入継続の決定により、米国がさらに大幅な関税引き上げに踏み切れば、米印関係の悪化は避けられない状況です。これは単なる貿易摩擦に留まらず、広範な地政学的な連携にも影響を及ぼす可能性があります。
米ホワイトハウスで握手するトランプ米大統領とインドのモディ首相。ロシア産原油輸入継続を巡る米印関係の緊張を示す象徴的な一枚。
インド政府の公式見解と国内外の報道の食い違い
米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)によると、インド政府高官は、原油調達に関する政策に変更はないと説明しています。これまで国営の石油精製企業がロシア以外からの原油調達を進めているとの報道もありましたが、高官は「政府は石油企業に対し、ロシアからの輸入を削減するよう指示は出していない」と明言しました。印政府当局者はロイター通信に対し、「長期の原油輸入契約があり、一夜にして購入をやめるのは簡単ではない」と述べています。また、インド外務省の報道官は1日、ロシア産原油の輸入に関して「インドは国際市場の原油価格とその時点の国際的な状況に応じて判断を行っている」と述べ、詳細については言及を避けました。
一方で、これまでの報道とは食い違いも見られます。ロイター通信は7月30日に「インド国営の石油精製企業が過去1週間、ロシア産原油の輸入を停止した」と報じ、米ブルームバーグ通信も31日に「印政府が国営石油精製企業に対し、ロシア産原油の供給が停止した場合の代替の調達計画を作成するよう指示した」と伝えていました。トランプ氏自身も8月1日に「インドがロシアからの原油購入をやめると聞いた。良い一歩だ」と記者団に語っていました。NYTの報道はこれらの見方を打ち消す形となりましたが、インドが水面下で代替の選択肢を探る可能性も依然として残されています。
ロシア産原油を巡る各国の思惑
インドは中国と並び、ロシア産原油の主要な輸入国です。トランプ政権は、ウクライナとの停戦に応じないロシアへの圧力を強めるため、インドや中国に対して「関税を引き上げる」と警告し、ロシアからの原油購入を止めさせようとしています。この状況は、エネルギー供給網における国際政治の複雑さを浮き彫りにしています。
結論
インドがロシア産原油の輸入継続を決定したことは、経済的合理性と地政学的圧力の間でバランスを取ろうとするインドの姿勢を明確に示しています。しかし、この選択はトランプ米政権との間で新たな緊張を生み出し、米印関係に大きな試練を与えることになりそうです。国際原油市場の動向と米印間の貿易交渉の進展が、今後の世界のエネルギー安全保障と国際関係の行方を左右する重要な鍵となるでしょう。
参考文献
- The New York Times
- Reuters
- Bloomberg
- 毎日新聞