2025年6月26日、朝鮮中央テレビは日本海側の元山地区に開園した元山葛麻海岸観光地区の竣工式における、金正恩(キムジョンウン)総書記の娘とされるキム・ジュエ氏の異例の動向を報じました。式典会場に豪華クルーザーが到着し、乗降口で金総書記の妻、李雪主(リソルチュ)氏と崔善姫(チェソンヒ)外相が談笑する中、奥から金総書記と10代に見える少女が登場すると、李氏と崔氏は慌てて後ろに下がりました。この少女は、西側メディアが「キム・ジュエ」と呼ぶ金総書記の娘です。この一連の出来事は、北朝鮮における権力継承のあり方について新たな憶測を呼んでいます。
元山葛麻海岸観光地区での異例の光景
北朝鮮では「長幼の序」といった儒教思想が深く根付いており、子どもが親や高位の人物を差し置いて行動することは通常考えられません。しかし、今回の元山葛麻海岸観光地区の竣工式でのジュエ氏の振る舞いは、一般的な序列を逸脱したものでした。李雪主氏と崔善姫外相がジュエ氏の登場に際して慌てて後退する様子は、彼女が特別な地位にあることを強く示唆しています。これは、最高指導者の家族であっても、公の場における厳格なプロトコルが支配する北朝鮮社会において極めて異例の事態として注目されました。
元山葛麻海岸観光地区の竣工記念公演で金正恩総書記と並んで鑑賞する娘キム・ジュエ氏
李雪主氏不在下の「指導者と後継者」像の確立
李雪主氏がメディアに登場したのは実に1年半ぶりでした。その間、金正恩総書記とキム・ジュエ氏の二人は繰り返し公の場に登場しており、これは「指導者と後継者」という構図を国内外に定着させる狙いがあったと見られています。また、竣工式でジュエ氏が見せた拍手の仕草も注目されました。彼女は片方の手のひらだけを動かし、もう一方の手のひらを軽く叩くような独特の動作をしていました。この動作は過去、北朝鮮の最高指導者や後継者にしか見られなかったものです。韓国中央情報部(KCIA、現在の国家情報院)で長年北朝鮮を担当し、元韓国統一相でもある康仁徳(カンインドク)氏は、「現時点では、ジュエ氏が後継者だろう」と述べ、この動きが金総書記の後継者としてのジュエ氏の地位を裏付けるものだと分析しています。
北朝鮮の権力継承プロセスとキム・ジュエ氏の現状
北朝鮮における権力継承作業には、いくつかの段階があります。まず、親しい側近だけが後継者の存在を知る秘密の時期から始まり、その後、徐々に国民にその存在を意識させる段階へと移行します。公式に朝鮮労働党や政府で活動を始める際にも、金正日(キムジョンイル)総書記が「党中央」と、金正恩総書記が「青年大将」といった呼称を使い、その神秘性を高めてから公式に登場するのが通例でした。
現在、キム・ジュエ氏は党や政府の公職には就いていません。彼女の現状は、国民に後継者としての存在を認知させることに全力を挙げている段階にあると見られます。日米韓などの関係国は、ジュエ氏が2012年秋から2013年初めにかけて生まれたと推定しています。さらに、ジュエ氏は2025年5月以降、ロシア政府関係者が出席する外交行事にも参加し始めており、今後、金正恩総書記の外遊に同行する可能性も指摘されています。
ジュエ氏の将来的な役割と今後の動向
キム・ジュエ氏の異例の公的活動と、これまでの指導者の後継者指名プロセスとの比較から、彼女が金正恩総書記の後継者として着実に位置づけられつつあることが示唆されます。彼女が公式な役職を持たない中で、国内の重要行事だけでなく外交の場にも姿を見せ始めていることは、国民の認知を広め、将来の指導者としての準備を進めている段階にあると解釈できるでしょう。今後も、ジュエ氏の動向は北朝鮮の政治情勢、ひいては朝鮮半島および国際社会における安定に大きな影響を与えるものとして、引き続き注視されることになります。
参考文献
- 朝日新聞社