ドナルド・トランプ氏、スイスへの「関税爆弾」発動か:貿易不均衡巡る対立激化

米国のドナルド・トランプ前大統領が、スイスに対し貿易収支の不均衡解消への「誠意」を示さなかったとして激怒し、スイス産輸入品への高率関税賦課を決定したとの解釈が浮上している。トランプ氏の強硬な経済政策が、国際貿易関係、特に日本を含む世界経済に与える影響に注目が集まっている。

ドナルド・トランプ氏、スイスへの「関税爆弾」発動か:貿易不均衡巡る対立激化

「誠意不足」に激怒:期限直前の電話会談の舞台裏

ブルームバーグ通信が報じたところによると、7月31日スイス時間午後8時、トランプ氏が設定した貿易合意の期限までわずか10時間を残す状況で、米スイス両国の大統領による電話会談が行われた。合意が不成立の場合、スイスには31%の相互関税が課される予定だった。

この会談では、貿易収支に対する両国首脳の認識の違いが鮮明になった。トランプ氏は、スイスの対米貿易黒字が年間400億ドル(約6兆円)規模に達していることを集中的に問題視し、「スイスが米国から金を盗んでいるのと同じであり、これを解消するためにはスイス側の措置が必要だ」と主張したという。しかし、スイスのカリン・ケラー・ズッター大統領は会談で明確な提案を示さなかったため、トランプ氏は数時間後に「激怒」し、スイスに対し8月7日から39%の相互関税率を適用すると発表した。

スイス側の反論と予想される経済的影響

ブルームバーグによれば、ケラー・ズッター大統領は会談翌日の8月1日、「スイスが米国から金を盗み出しているも同然で、貿易赤字に相当する関税率を背負うべき」というトランプ氏の考えに対し「馬鹿げている」と反論した。

もしスイス産の商品に実際に39%の関税が適用される場合、関税率が15%にとどまっている欧州連合(EU)諸国に比べて、スイスははるかに不利な立場となる。ブルームバーグは、「トランプが7月31日の電話会談で貿易収支の赤字問題を集中的に取り上げ、サービス、対外投資、スイス側の協力提案などを含む包括的な視点を持たなかったのは、スイス側が予想していなかったことだ」と評価している。

高級時計業界と米消費者への波紋

今回の決定は、ロレックス、パテック・フィリップ、オメガといったスイス製高級時計の購入を予定していた米国の消費者や流通業者に衝撃を与えた。AP通信は、スイス時計産業連盟が米国の39%輸入関税賦課の決定について「非常に失望しており、驚いている」との立場を明らかにしたと伝えている。

日頃からロレックスなどさまざまなスイス製高級時計を愛用してきたトランプ氏自身の行動に対する批判も上がっている。スイスの時計専門家オリバー・ミュラー氏はブルームバーグに対し、「それに何よりも、彼(トランプ氏)自身がスイス時計を好きなのに!」と嘆いた。ミュラー氏は、予定通り関税が課されれば、米国内での小売価格が12~14%上昇するとの見通しを示している。

今後の展望

今回のドナルド・トランプ氏によるスイスへの高率関税賦課の可能性は、貿易不均衡に対する米国第一主義の強硬な姿勢を改めて浮き彫りにした。これが実際に発動されれば、スイス経済、特に高級時計産業に大きな影響を与えるだけでなく、米国の消費者にも直接的な負担となることが予想される。国際貿易における緊張関係は引き続き高まり、今後の動向が注視される。

参考文献