ドラマにおいて、主役が魅力的であることはもちろん重要です。しかし、時にそれ以上に視聴者の心に深く刻まれるのが「悪役」の存在感でしょう。彼らの存在は、物語に奥行きと緊張感をもたらし、主役の輝きを一層引き立てます。顔を見ただけで嫌悪感を覚えるほどの「天下の嫌われ役」を演じきれば、まさにその俳優は本物と言えるでしょう。近年、その本領を遺憾なく発揮し、作品全体の完成度を高めた韓国ドラマの悪役スターたちを紹介します。(以下、一部ネタバレを含みます)
圧倒的存在感!『グッドボーイ』オ・ジョンセの「巨悪」
悪役にもスケールがあります。単なる悪役ならば演じられる俳優は多いものの、「巨悪」を表現するには相応の演技力と存在感が必要です。その点で、ドラマ『グッドボーイ』でオ・ジョンセが見せた凄みは圧倒的でした。彼が演じたのは架空の都市インソン市の関税庁職員ミン・ジュヨン。公務員でありながら密輸と麻薬で巨額の富を築き、その資金力を背景にインソン市の上層部、さらには市長までをも支配するほどの絶対的な権力者として君臨します。
ジュヨンは、ユン・ドンジュ(パク・ボゴム)の親友をひき逃げ犯に仕立て上げて殺害するという非道な行いにも手を染めます。主人公ドンジュにとって許しがたい仇敵として、ミン・ジュヨンはこれ以上ないほどの完璧なキャラクターでした。オ・ジョンセは、一見穏やかな表情の裏に潜む冷酷さと狡猾さ、そして際限のない悪意を巧みに表現し、視聴者に深い憎悪を抱かせるとともに、『グッドボーイ』に途方もない緊迫感とサスペンスをもたらしました。彼の怪演がなければ、このドラマの骨太な魅力は半減していたことでしょう。
『グッドボーイ』で悪役ミン・ジュヨンを演じたオ・ジョンセと、主演パク・ボゴムの和やかなオフショット
配信情報:
『グッドボーイ』Prime Videoにて日本独占配信中 [2025年/全16話]
演出: シム・ナヨン
脚本: イ・デイル
出演: パク・ボゴム、キム・ソヒョン、イ・サンイ、ホ・ソンテ、テ・ウォンソク、オ・ジョンセ
視聴者の怒りを買った『ザ・グローリー〜輝かしき復讐〜』イム・ジヨンの「いじめの極致」
次に挙げる悪役スターは、イム・ジヨンです。彼女がNetflixシリーズ『ザ・グローリー〜輝かしき復讐〜』で演じたパク・ヨンジンは、視聴者の怒りを最も買った「いじめの極致」を体現するキャラクターでした。ソン・ヘギョ演じるムン・ドンウンを徹底的に追い詰めた悪魔そのものであり、その悪行には一切の躊躇や罪悪感がありませんでした。ヨンジンは成長後、テレビで人気を集める気象キャスターとなり、表向きは裕福で華やかな生活を謳歌していました。
過去のいじめの復讐に燃えるドンウンは、小学校教師の資格を得てヨンジンの娘の担任になります。ここから、かつての被害者であるヒロインと、一切の反省を持たない悪女との壮絶な戦いが幕を開けます。イム・ジヨンは、パク・ヨンジンという人物が持つ自己中心的で狡猾、そして他者の苦痛に無関心な性格を、その表情、声、立ち居振る舞いの全てで憎たらしく演じきりました。そのあまりにも徹底した悪女ぶりは、多くの視聴者に強烈な憤りを与え、ドラマへの没入感を最大限に高める要因となりました。まさに、そこまで徹底して演じきれるからこそ、イム・ジヨンは正真正銘の悪役スターとしてその名を轟かせたと言えるでしょう。
配信情報:
Netflixシリーズ『ザ・グローリー〜輝かしき復讐〜』独占配信中 [2023年/全16話]
脚本: キム・ウンスク
演出: アン・ギルホ
出演: ソン・ヘギョ、イ・ドヒョン、イム・ジヨン、ヨム・ヘラン、パク・ソンフン、チョン・ソンイル
悪役の存在がドラマの深みを増す
今回紹介したオ・ジョンセとイム・ジヨンのように、悪役の存在感はドラマ全体の質を大きく左右します。彼らが演じる「巨悪」や「いじめの極致」は、主役の行動原理を明確にし、物語に緊張感と深みを与え、視聴者の感情を強く揺さぶるトリガーとなります。時に主役を食うほどの強烈な印象を残す悪役の存在は、物語のエンターテインメント性を高めるだけでなく、社会的なメッセージや人間の多面性を浮き彫りにする重要な役割を担っていると言えるでしょう。彼らの卓越した演技力こそが、作品を単なる物語から記憶に残る傑作へと昇華させているのです。