旧統一教会、渋谷拠点が立ち退き訴訟に直面:解散命令が全国施設に波及か

社会的な批判に晒されている旧統一教会(世界平和統一家庭連合)が、東京都心の一等地に構える重要拠点で、建物明け渡しを求める訴訟を起こされていることが明らかになりました。この訴訟の根拠は、賃貸借契約書に定められた「反社会的集団に準ずる者」に教団が該当するという異例のものであり、今年3月に東京地裁が下した解散命令が引き金となっています。教団の存続が危ぶまれる中で提起されたこの訴訟は、全国に点在する教団施設の命運を左右する、極めて重要な転換点となる可能性を秘めています。

旧統一教会の本部と見られる、渋谷区松濤に位置するビル。同教団に対する立ち退き訴訟の背景にある社会問題を象徴する建物。旧統一教会の本部と見られる、渋谷区松濤に位置するビル。同教団に対する立ち退き訴訟の背景にある社会問題を象徴する建物。

訴訟の背景と「反社会的集団」条項の適用

問題の建物は、渋谷区宇田川町に位置する地下1階から地上4階建てのビルで、「渋谷家庭教会」が入居しています。教団のウェブサイトによれば、この施設は礼拝堂、集会室、託児室、応接室などを備え、長年にわたり都心における教団の重要拠点として機能してきました。このビルに対し、所有者である不動産会社が2025年3月27日付で、教団に対して建物の明け渡しを求める通知を発し、訴訟に踏み切ったのです。

不動産会社が明け渡しを求める法的根拠は、賃貸借契約書に明記された解除事由です。具体的には、「(借り主が)世間、地域住民に迷惑を掛ける行為があったとき、反社会的集団(暴力団、暴走族等)の構成員、これに準ずる者と判明したとき」という条項が盛り込まれています。不動産会社は、2025年3月25日に東京地裁が旧統一教会に解散命令を下したことが、この条項に抵触すると主張しています。訴状では、解散命令によって両者間の信頼関係が著しく破壊されたとし、「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をした」と認定された以上、教団の活動は「世間、地域住民に迷惑をかける行為」であり、「反社会的集団に準ずる者」に他ならず、賃貸借契約の継続が困難な重大な事由であると述べられています。

東京地裁の解散命令が引き起こした波紋

今回の立ち退き訴訟の直接的な引き金となったのは、東京地裁による解散命令であることは間違いありません。文部科学省の請求を全面的に認めたこの決定は、旧統一教会による不法行為の「組織性、悪質性、継続性」を厳しく指弾するものでした。東京地裁が公表した決定の要旨によれば、教団による献金の勧誘行為などは、少なくとも昭和50年代後半から全国的に行われ、その手法は「総じて悪質」であると認定されています。さらに、元信者らが起こした訴訟や、裁判外での和解・示談などを分析し、被害者数は1500人以上、被害総額は約190億円にのぼると推計。「類例のない膨大な規模の被害が生じた」と断じられています。

この司法判断は、教会に建物を貸している不動産会社に大きな衝撃を与えました。住宅ジャーナリストの榊淳司氏によると、家賃が滞納されていないにもかかわらずオーナーが立ち退きという強硬手段に出た背景には、経済的な理由があります。旧統一教会のような団体がテナントに入居している場合、その不動産の担保価値が著しく毀損される懸念があるのです。銀行はコンプライアンスの観点から、反社会的な団体が関わる物件への融資を制限する可能性があり、その結果、オーナーはビルを担保に新たな資金を借り入れできなくなる恐れが生じます。また、旧統一教会が入居したままでは、次の買い手を見つけること、すなわちオーナーチェンジでの売却も極めて困難になるでしょう。オーナーにとって、自身の資産価値の維持は経営の根幹に関わる重要な問題であり、今回の訴訟はこれを守るための行動と解測できます。

渋谷の判例が全国の教団施設に与える影響

この渋谷での訴訟は、単なる一施設の明け渡し問題に留まりません。旧統一教会が公表している国内290の教会のうち、賃貸物件は約7割近くを占めるとみられています。もし渋谷のケースで、解散命令を理由とした立ち退き請求が認められる判例が確定すれば、全国の物件オーナーが同様の訴訟を起こす「前例」となり得るため、その動向は他の教団施設にとってもその存続を揺るがす「試金石」となる可能性があります。榊氏は、「最初の判例を勝ち取るまでが大変ですが、ひとたび確定すれば、訴訟のハードルは一気に下がりますから、全国の物件オーナーが『我も我も』と追随する可能性は高い。各地のオーナーたちは、この裁判の行方を、固唾をのんで見守っているはずです」と指摘します。

教会は、信者にとって信仰の拠点であり、礼拝や各種イベントが開催される場所です。全国でこうした施設が使用できなくなれば、教団の活動は大幅な制約を受けることになり、組織運営に大きな打撃を与えることとなるでしょう。

旧統一教会を取り巻く相次ぐ逆風と教団の反論

旧統一教会を取り巻く環境は、日を追うごとに厳しさを増しています。7月30日には、献金などの被害を訴える人々からの申し立てを受け、財産保全のため、渋谷区松濤にある教団本部の土地が7月18日に仮差し押さえられていたことが大きく報じられました。さらに、東京都多摩市で計画していた研修施設の建設も、住民の猛烈な反対を受け、事実上頓挫しています。

今回の立ち退き訴訟も、これら一連の「教会包囲網」の一つとして位置づけられます。司法、行政、そして市民社会からの厳しい視線に晒され、教団の活動がますます困難になることは避けられない状況です。

FRIDAYデジタルの取材に対し、旧統一教会の広報部は、この立ち退き訴訟について以下のようにコメントしています。「訴訟については、立ち退きの理由がなく不当な請求なので、争うという答弁書を出しています。この件のように、信仰や集会の場所として信徒たちの心の拠り所となっている教会施設が、正当な理由なく失われる危機に瀕しているという状況は、著しい信教の自由の侵害であると考えています。その他に立ち退きを要求されて訴訟を起こされた事例はありません」。教団側はあくまで「不当」であると主張し、法廷で徹底的に争う構えを見せています。

今後の展開と教団の活動への影響

解散命令によって社会的な信用が失墜し、今度は活動の拠点まで追われる危機に瀕している旧統一教会。相次ぐ訴訟と社会からの批判の嵐に直面し、その行く末はこれまでになく不透明な状況となっています。今回の渋谷の立ち退き訴訟がどのような結末を迎えるかによって、全国の教団施設、ひいては教団全体の活動に決定的な影響を与える可能性があります。今後も司法の判断と、それに対する教団の対応が注目されます。


参考文献

  • FRIDAYデジタル
  • Yahoo!ニュース